「図説世界の歴史」

 「図説世界の歴史 全10巻」(J・M・ロバーツ 創元社)読了。実はかなり以前に読み終えたのですが、紹介するのをすっかり忘れておりました。とても素晴らしい本ですので、遅まきながら賛辞を捧げたいと思います。
 まずは世界の歴史を一人で叙述するという偉業をなしとげたロバーツ氏に、スタンディング・オベーションを捧げましょう。パチパチパチパチパチ 「いかに多くの人間に影響をおよぼしたか」という視点によって歴史的事件や出来事を選択し、不明なところや確信の持てない部分は正直にそう述べて独断に走らない。そして何よりも、重要な出来事を年代記として、わかりやすく物語るという態度に好感をもちました。図版や地図は大きく掲載され見やすいもので、資料に関する写真も美しいものが多々あります。たぶん、今望みうる中で最も充実した世界通史だと思います。最近ずーっと寝る前に、ナイトキャップをちびりちびりと飲みながら本書を読んでいたのですが、この至福の時間がもう味わえなくなるのかと思うと少し悲しい。内容は多岐多彩なので、とても要約はできませんが、下記のような興味深い叙述・指摘に満ち溢れています。
 ヒト亜科のメスが発情しなくなったのは、幼児期がのびたことに原因があります。もし子育て中の母親に発情期がくると、子供は放ったらかしにされて、命を落としかねないからです。…発情期の消滅にともなってさらに大きな変化が起こります。メスの性的魅力が増し、交尾できる期間がのびたことで、オスもメスも相手を選り好みするようになったのです。それまでのように、ある期間がくれば自動的にパートナーが決まるのではなく、男女関係の性的な好みが生まれ始めたのです。この新しい男女関係と幼児期の長期化が引き金となって、父、母、子供からなる、人間に特有の「家族」ができあがりました。
 うーん、なるほど。お気づきのように、です・ます調の文体も親しみやすくていいですね、これは訳者の識見でしょう。残念ながらロバーツ氏は急逝されてしまいました。できればこれらを一冊にまとめた「ダイジェスト版 図説世界の歴史」を読みたかったのですが叶わぬ夢です。でも世界の歴史をふりかえる上で、私にとって大きな航海図になってくれるものと思います。出版社の識見にも感謝したいと思います。
by sabasaba13 | 2007-05-09 06:05 | | Comments(0)
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