「職場はなぜ壊れるのか」

 「職場はなぜ壊れるのか -産業医が見た人間関係の病理」(荒井千暁 ちくま新書643)読了。いま働いている職場は、それほどがつがつしておらずのんびりと仕事ができます。給料は安いのですが、修羅場で働くよりはなんぼかマシだと思います。しかし周知のように、働きながら心の病を発症する労働者が急増しているようです。どうやらその原因は、成果主義システムの拙速なる導入によるらしいですね。決して他人事ではないので、そうした状況を熟知する産業医の荒井氏の報告、身にしみながら拝読しました。
 理不尽な評価によって給与に差をつけられることが、いかに職場をスポイル、いやそんなやわな表現ではなく破壊しているか、よくわかりました。長期的な視野は捨て近視眼的な業績にのみこだわる、冒険はしない、周囲はすべて敵なので同僚の評価を下げさせるためにあらゆる手練手管を使う。これはまさしく病理です。以前に「競争社会をこえて」という本を紹介しましたが、そこに述べられてあるとおり、競争原理が人間関係に楔をうちこみ、互いの敵意を生じさせずにはおかないかをあらためて痛感し、悪寒を覚えます。筆者は産業医という立場上、構造的な欠陥をどうすればよいかという提言はされておりませんが、少なくとも以前のような評価システムにいったん戻すべきだという考えには同感です。これでは労働者もろとも企業自体もつぶれてしまうでしょう。人間の労働より数値を重視するというプロクルステスの寝台的状況を知る上でも格好の一冊です。なおハインリッヒの法則というものをはじめて知りました。
 一件の重大災害(死亡や重症)が発生した場合、その背景には29件の軽症事故とともに、300件のヒヤリ・ハットがある。

by sabasaba13 | 2007-09-01 07:48 | | Comments(0)
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