「世界の半分が飢えるのはなぜ? ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実」(ジャン・ジグレール たかおまゆみ訳 勝俣誠監訳 合同出版)読了。著者は飢餓問題研究の第一人者で、その彼が息子の疑問に答えるという形をとりながら、人びとが飢える本当の理由を、ひとつひとつわかりやすく解説してくれます。国の政治腐敗、市場原理主義経済の支配、止むことのない戦争、そして自然環境の破壊… 飢える人びとの写真を掲げ、「食べ物を大事にしようね」「時々、援助団体に寄付しようね」などと言って現状を暗黙のうちに追認する生温い本ではありません。この凄惨な事態は地震・台風・津波のような自然災害ではない、われわれ人間が作り出した社会の構造やしくみにこそ真の原因があるのだ、と静かに力強く語りかけてくれます。いくつか引用をしましょう。
穀物の収穫量は十分だ。しかし、その取引価格はシカゴの投機家の手によって人為的に操作されて、国連や国連食糧計画(WFP)、さまざまな人道的援助団体、あるいは慢性的な飢えに苦しむ国ぐには、穀物メジャーによって決められた価格で買わざるを得ないということが問題なのだ。特に最後に一文には、血を吐くような憤りと嘆きを感じます。一刻も早く、この言葉を真摯に受け止めて行動を起こさないと世界は終わる。連動しているのでしょうが、環境問題とも相通じます。それでは私は、私たちは、どうすればよいのか。何をすればよいのか。世界経済のメカニズムに一定の制限を課すための国際戦略や多国間条約が重要でしょう。しかしその大前提として著者は教育と世論に関心を持っておられるように感じます。 飢えという教科がある学校はまだ見たことがない。地球の各地でくり広げられている戦争の直接の犠牲者よりもはるかに多くの人びとが、毎日飢えのために死んでいくというのに。飢餓について知り考えてもらうための教育、そしてそういう教育を受けた人びとが立ち上がり、大きな国内世論そして国際世論の渦を巻き起こして事態を変えていく。そこに一縷の望みと希望があると氏は考えているのではないのでしょう。世論を操る国は多々ありますが、世論を無視する国はまだそれほど多くはないでしょう。人間の手でつくられた構造やしくみは、人間の手で変えることができるという信念を忘れずにいたいと思います。 ひるがえって日本の現状はどうか。「食育」などというわけのわからない言葉がもてはやされていますが、飢餓に真っ向から取り組みカリキュラムに入れようとする動きはまったくないようです。そんなことをする暇があったら、「愛国心」「道徳心」「従順さ」を注入する授業に力を入れるべきだというのが官僚・政治家の考えでしょう。また国民を思考停止の状態に溺れさせ、不都合な世論が形成されないようにするための技術・戦略にも彼らは長けているようです。ま、これは溺れてしまう側にも責任はあるのですがね。しかし諦めないようにしましょう。 なお本書では言及されていないのですが、先進国で食糧の自給自足をすることも大事だと思います。そうすれば食糧を投機の対象とする穀物メジャーの跋扈を食い止められるし、第三世界でも自国に必要な食糧の生産に取り組めるようになると思います。また輸送の際に必要となる化石燃料を減らすことができるし、ポスト・ハーベストの問題も解決できる。そして何といっても、とれたての食べ物は美味しい! いわゆる地産地消です。こうした事に目を向けず、食糧を輸入にたよっている国、ましてや食糧自給率が約40%などという先進国は、世界中に害毒と災厄をばらまいていることになります。そう、われらが日本です。こうした事実を見ただけでも、自民党・公明党・官僚諸氏は、「国益」や「安全保障」について、関心の"か"の字もないことがよおおおおおくわかります。
by sabasaba13
| 2007-11-01 06:05
| 本
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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