バスもタクシーもないので駅までの約4kmを早歩き。再び特急で札幌に戻り、地下鉄環状通東駅に行き、バスで約20分。イサム・ノグチの設計によるモエレ沼公園に到着しました。イサム・ノグチ(1904―88)。アメリカの現代彫刻家。英文学者で詩人の野口米次郎と、作家レオニー・ギルモアとの間に生まれ、少年期は日本で育つ。渡米した後、彫刻家 を志し、アジア・ヨーロッパを旅して見聞を広めた。パリでは彫刻家ブランクーシの助手をつとめる。ニューヨークに居を定め、肖像彫刻、舞台美術をへて環境彫刻やランドスケープ・デザインにまで幅広い活動を開始する。戦後は日本でも陶器作品や、和紙を使った「あかり」のデザインなどを行う。その後、アメリカ国内外の各地で、彫刻、モニュメント、環境設計を続け、「地球を彫刻した男」と呼ばれる。1988年12月30日ニューヨークで没。その彼の文字通り最後の作品がここです。ゴミ捨て場であったモエレ沼を公園として再生するに際し、イサムに設計を依頼した札幌市の英断には海よりも深く感謝します。「公園に彫刻作品が置かれるのか」という質問に対して、「公園全体が彫刻なのです」と答えたと聞きましたが、これがすべてを物語っています。マスター・プランができた直後に心不全で急死、文字通り彼の遺作です。さて、いつものことですが、今回は特にこの公園のすばらしさを言葉で表現する自信は全くありません。でもやってみましょう、蟷螂の斧ですが。
まず目に入るのが富士山のような形をした、高さ60mの人工的につくられたモエレ山。まだ未完成で立入りは禁止。そしてガラスのピラミッドのような管理棟。中央噴水も工事中です。少し歩くと広大な芝生の広場。売店も立て札も道も木々もない、フラットな空間が広がります。キャッチボールをする人、寝転ぶ人、凧をあげる人、みんな思い思いに時を過ごしていました。その眼前にそびえるのがプレイ・マウンテン(遊び山)。三角錐の形をしており、石をつみあげベンチにも階段にもなる斜面と、芝生におおわれた斜面からなっており、子供たちがゴロンゴロンと転がり下っていました。頂上は360度のパノラマで、三日月形のモエレ沼や遠く札幌市内が見渡せます。その隣にはイサムの巨大な作品である「テトラ・マウント」が設置されています。 そして公園の三分の一ほどが林の中にあり、遊具の置かれた広場が点在しています。その遊具もすべてイサムがデザインしたもので、「さわりたい/のぼりたい/もぐりたい」と思わせる魅惑的な配色・フォルムをしています。高校生や大人が嬉々としてブランコにのったり、滑り台から滑り降りている姿が印象的でした。(もちろん小生も) そしてどんな遊び方をするかはこちらの想像力に委ねられているような遊具もたくさんあります。ちょっと勇気を出せば飛び越えられる、挑発的なスパンが印象的な遊具もありました。 そして刺激的な空間構成。手前に山型のジャングル・ジム、左にピラミッド型の管理棟、右にプレイ・マウンテン、遠くには自然の山々の稜線。どのアングルで切り取っても、こちらの感性を魅惑してくれます。公衆便所や水呑場にもイサムの細やかなデザイン感覚が反映されています。そして掲示板。少し歩いて気づいたのですが、この公園には「文字」がほとんど見当たりません。言葉ではなく、体でこの公園を楽しんでほしいというメッセージかな。そして子供や外国人を意識した思いやりでもあるのでしょう。上から三つ目の絵が気になるので、後で公園に問い合わせてみようと思います。「悲しんではいけない」というメッセージだったら素敵ですね。 夕暮れも近づき、プレイ・マウンテンの頂上に座り、陶然として公園全体を眺めていたら、後ろにいた若い二人の男性のしみじみとした美しさに溢れた会話が聞こえてきました。「モエレ沼って、前は何にもなかったよなあ…」 (間) 「札幌っていいところだなあ…」 そうだよねっ。郷土や祖国への愛というものは、こうやってしみじみと囁くように自然と口に出るものなんだよね。声高に叫んだり、無理矢理人に言わせたりするものではないんだよね、断じて。大きな空を紫色に染めながら陽が落ち、漆黒の闇が広がり、そして重い腰を上げて帰途につきました。 イサム・ノグチの言葉です。「二重国籍で生まれた私は、自分自身がどこに属しているかはっきりしていませんでした。だから私は、本当に落ち着けるところ、そして、誰かの役に立てるところを探し続けてきました。」 大丈夫、あなたは地球に属しています。そしてこんなに楽しく役に立つ空間を私たちに贈ってくれました。心から感謝します。ありがとう。旅の喜びの一つは、「またここに来たいから、頑張って働こう」と思える場所に出会うことですが、今日は一日でいっぺんに二つ出会えました。自分へのご褒美に、夕食は十勝牛のステーキ。今思い出しても、胸が震えるような極上の一日でした。そうそう、ここで購入した記録映画「地球を彫刻した男」を見ていたら、「やっと少しわかってきた」というのが彼の口癖だそうです。これもいい言葉ですね。イサム・ノグチとの付き合いは長くなりそうです。次は酒田の「土門拳記念館」じゃ。 本日の三枚です。 追記。掲示の意味がようやく判明しました。予想が外れて、すこし残念。
by sabasaba13
| 2005-02-19 07:47
| 北海道
|
Comments(8)
はじめまして。
TB有難うございます。 北海道に住んで、モエレ沼公園には何度も行ってますが、 このブログを読んで『へぇ~そうなんだ』 と勉強させて貰いました。 ブログ頑張ってくださいね。
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sabasaba13 at 2005-02-27 17:05
こんにちは。コメントをありがとうございます。モエレ沼公園に何度も行けるなんて羨ましいかぎりです。きっと四季おりおりの表情があるのでしょうね。完成したら必ず再訪するつもりです。それでは。
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sabasaba13 at 2005-02-28 21:23
こんばんは。コメントをありがとうございます。北海道のいろいろな便りを楽しみにしています。近々自作の雑俳をUPします、汗顔ものですが… それでは。
初めまして
初めまして
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sabasaba13 at 2005-03-20 08:05
こちらこそ
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sabasaba13 at 2005-03-20 08:05
こちらこそ
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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