肥前編(10):原城(07.9)

 そして原城の入り口まで送ってもらいました。もちろん、島原の乱の主戦場となった城です。島原の乱、1637~38(寛永14~15)年、島原・天草のキリシタン農民・牢人が合流して起した一揆です。島原藩主松倉氏、天草の領主寺沢氏の苛政とキリシタン弾圧により両地で一揆が起ります。特に島原藩の苛政は凄まじかったようで、オランダ商館長クーケバックルの以下のような証言が残ります。「定められた租税を支払うことのできない人々には領主の命によって、葉が長くてひろい草で作った粗末な外衣を着せる。日本人はこれをミノ(蓑)とよんでいる。…この外套を頸と胴にむすびつけ、両手は縄で背後に堅く縛られる。ついでこの藁の外套に火を放つ。人々はただ火傷を負うだけでなく焼け死ぬ者もあり、また身体を激しく地にたたきつけたり、水に身を投じておぼれたりして死を選ぶ者もある」 そして有馬氏の旧城原城に合流、小西牢人の子天草四郎時貞を指導者としました。幕府は板倉重昌を征討上使として派遣しましたが、原城総攻撃で敗死、続いて老中松平信綱が九州諸藩の軍勢など大軍を指揮しこれを鎮圧します。一揆勢は皆殺しにされ、島原藩主松倉勝家は斬罪、天草領主寺沢堅高は天草を召し上げられ後に自刃、そして寺沢家は断絶。この島原の乱をきっかけに、幕府はキリスト教を狂信的で危険なカルト教団と見なし、その根絶のために日本人の海外渡航・外国人の来日禁止+貿易統制、いわゆる「鎖国」体制を築いていきます。さらに幕府はこの反乱を重税に対する農民の抵抗と認識し、以後過酷な年貢・夫役の収奪をやめ農業経営を安定させる農政をめざすことになります。(田畑永代売買の禁令+慶安の触書+田畑勝手作りの禁) これは余談ですが、この時期、江戸時代初期の新田乱開発によって、国土が荒廃し大洪水などの災害が多発します。危機感を覚えた幕府は、新田開発にストップをかけ、植林・森林の保護を命ずる諸国山川掟(1661)を命じます。これに限れば、今の自民党+公明党政権よりもはるかに優れた識見をもっていたわけですね。
 さて、タクシーを降りると、すぐ目の前が本丸です。附近には石垣と空堀しか残っていません。
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 石垣に沿って緩やかな坂を上ると、木々がまばらに生えた本丸跡に到着。ここを中心に一揆軍の総勢男女あわせて3万7000人が立て籠もり、凄惨な戦いがくりひろげられたのですね。生きるための絶望的な蜂起… 「生きさせろ! 難民化する若者たち」(雨宮処凛 太田出版)を読むと、今の日本は"島原の乱前夜"のような気がしてきます。しかしその戦いを思い浮かべるよすがは何もなく、群青の海と天草が陽光に輝いているだけでした。「痛ましき 原の古城に来て見れば ひともと咲けり 白百合の花」(新村出) 天草四郎の墓碑と像、いくつかの解説と記念碑がありました。
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 海と天草を見晴らせる所にはかつて櫓があったそうで、ここの下が櫓台石垣。「島原の乱図屏風」には、ここを攀じ登る幕府軍を描いた印象的な場面がありました。
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 この本丸から出たところにあるのがホネカミ地蔵。1766(明和3)年、有馬村願心寺の注誉上人が、この戦いで斃れた人々の骨を敵・味方の区別なく拾い慰霊した地蔵です。「ホネカミ」とは骨をかみしめるという意味で、「自分自身のものにする」「人々を救う」という含意もあるそうです。皇軍兵士と天皇の官吏しか慰霊しない靖国神社とは対極的な発想ですね。というよりも、歴史や伝統的な感性とは無関係に近代の日本帝国が捏造したのが靖国神社なのだなという思いを強くします。
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 さてそろそろバスが来る時刻です、バス停に急ぎましょう。途中で、雲仙普賢岳を背景に、ピーマン畠で一心不乱に農家の方が農作業をされていました。大自然と向き合いながら懸命に働くその姿に、しばし見とれてしまいました。いつの時代の人たちも、一生懸命に働けば生きていけるというきわめて当たり前の社会を願い求めてきたのではないのでしょうか。

 本日の三枚。上から、原城本丸遠望、本丸からの眺望、そして普賢岳と農夫です。
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by sabasaba13 | 2008-03-11 06:18 | 九州 | Comments(0)
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