「拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる」(関岡英之 文春新書376)読了。まずは本書で紹介されている衝撃的な話から。1995年1月17日、阪神・淡路大震災、そして3年後の1998年6月に「約半世紀ぶり」という鳴り物入りで建築基準法が改正されました。ま、普通の発想だったら、耐震基準を厳しくするんだな、「国益」ばかり考えて国民の利益など屁とも思わない官僚たちもさすがに重い腰を上げたか、と思いますよね。ところがぎっちょん、建築材料の性能基準は「国民の生命、健康、財産の保護のため必要最低限のものとする必要がある」!!! 最高のものではなく、必要最低限のものです。実は1990年6月に村田アメリカ大使がヒルズ代表(アメリカ通商代表部)に宛てた書簡ですでにこの件は決定していたのですね。つまり大震災が起こる以前に、アメリカ製木材を使用できるように建築基準法を緩めるという合意、というよりもアメリカ政府の強要を受け入れるという決定がなされていたわけです。
本書は、アメリカ政府が国益・グローバル企業の利益のために、どうやって日本政府に規制の緩和やシステムの改編を強要してきたか/いるかについて平易に解き明かしてくれます。もう一つ具体例を引用しましょう。今、日本では司法制度改革が進められていますが、その柱は三つですね。裁判期間の短縮・迅速化、そのための裁判官・弁護士の増員、そして裁判員制度の導入により司法を国民に身近なものにすること。著者の主張では、その裏にはやはりアメリカ政府による強要という影がちらついています。裁判を起こしやすい環境を整えた上で、アメリカ企業がライバルの日本企業を談合や特許侵害で次々に訴えるため、あるいは日本の市民による集団訴訟によって談合企業にダメージを与えるためではないのか。そう考えるとわれわれにもメリットがありそうですが、薬害訴訟・製造物責任訴訟に関してはアメリカ政府は冷淡なので、日本国民の生命・健康・財産の保護についてはしったこっちゃないということなのでしょう。ま、いかがわしい日本企業にいかがわしいアメリカ企業がとってかわるだけのようです。 そして驚くべきことは、これは陰謀ではなく、どうどうと公文書に記されわれわれも実際に読むことができるという事実です。毎年10月、アメリカ政府が日本政府に突きつける「年次改革要望書」がそれ。私も見てみましたが、日本の産業分野ごとに、規制緩和などの要求事項がびっしりと並べられています。これを読むと、日本政府がこれから行う改革が手に取るようにわかるという代物です。(アメリカ大使館ホームページ→政策関連文書→政策関連文書一覧→経済・通商関係→規制改革とご覧下さい) ちなみに正式名称は「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書」、"イニシアティブ"とはもちろん"米国政府が主導権をもつ"という意味ですね。ざっと一読した限りでは、医療機器・医薬品市場の米国企業への開放が次のターゲットのようです。やれやれただでさえ胡散臭い日本の製薬業界に、何をするかわからないアメリカ製薬業が参入してくるわけだ、これではおちおち薬も飲めません。それはさておき、こうした歴然とした事実に関して、日本政府もメディアも一切ふれていないということが恐ろしいですね。民主党もこの問題を追及しないのは、同じ穴の狢だからなのかな。 さあそれではどうすればよいのか。関岡氏は「日本政府と企業よ頑張れ」とエールをおくっているように思えますが、それほど事態は単純ではないと愚考します。国民の生命や健康を蔑ろにして利益を貪る日本企業もたくさんありますから、たとえアメリカ企業が参入してきても、われわれにとって事態は同じ地獄となりそうです。また同様のことを、日本政府・企業がより立場の弱い国に対して行っているという気もします。(それについての詳細を知りたいところです) 問題は、世界中の人たちを犠牲にして利益をひたすら追い求める現行の経済システムにあるのではないか。そうした毟り合いの螺旋から一刻も早く降りなければならないと思います。でもどうやって… 最後に本書で紹介されていた、ジョン・メイナード・ケインズの自由放任的な経済政策に対する批判を引用します。 首の一番長いキリンを自由に放任して、そのためにより首の短いキリンが餓死してもかまわないでいることである。…餓死させられる首の短いキリンの苦痛とか、…首の長いキリンの食べ過ぎとか、あるいは、群をなすキリンの穏和な顔に暗い影を投ずる不安、すなわち、闘争本能むき出しの貪欲の醜さを、どうして見過ごすことができよう。追記。今年からメタボリック症候群対策のため、健康診断において腹囲測定が強制されることになりました。この問題のいかがわしさは「メタボの罠」の書評で以前に取り上げましたが、われわれを病人に仕立て上げ薬漬けにさせようとするアメリカおよび日本の製薬業界の圧力が働いているのではないかと推測します。
by sabasaba13
| 2008-04-05 08:46
| 本
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Comments(2)
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みつひろ
at 2008-04-05 10:52
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本屋で「 「心」が支配される日 (斎藤 貴男)」 なる本を立ち読みしたのですが、一読してみてください。アメリカさんの影もちらつき、とっても、どす黒い気分になれます。
中国はチベットに同化政策を行って反発されてますが、アメリカは60年かけて、日本に対してもっと巧妙にやっているんですね。とほほ。
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sabasaba13 at 2008-04-06 14:36
こんにちは。本の紹介をありがとうございました。斎藤氏の批判精神にはつねづね敬服しておりますので、機会を見つけてぜひ読んでみたいと思います。
アメリカの対日政策は、はっきりと植民地化政策だと考えます。徹底的にどす黒い絶望から出発するしかないのでしょう。
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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