U2

 アイルランド旅行予習編、それでは音楽を聴いてみることにしましょう。この国はあまりクラシック音楽の作曲家を輩出していないので、ロック・バンドのU2(ユーツー)を選んでみました。いろいろと噂には聞いているのですが、彼らの音にきちんと向かい合ったことはありません。ここはいい機会なので、「THE BEST OF 1980-1990」を拝聴しました。
 メンバーはボノ(ボーカル・ギター)、ジ・エッジ(ギター・キーボード・ボーカル)、アダム・クレイトン(ベース)、ラリー・マレン・ジュニア(ドラムス)で、結成から現在に至るまで不動だそうです。一曲目の"PRIDE(IN THE NAME OF LOVE)"から、もう武骨な両手で肩をがしっとつかまれるよう。ジ・エッジのくりだす鋭いカッティングとそれを支える重厚なリズム・セクション、そして己の全てを搾り出すかのようなボノの力強いボーカル。シングル・モルトのアイリッシュ・ウイスキーを、指二本分ぐいっとあおったような酔い心地です。しかし凡百のバンドに堕さない最大の理由は、その真摯なメッセージにあるかと思います。例えば、北アイルランド紛争におけるテロの悲劇を歌った"SUNDAY BLOODY SUNDAY"の歌詞の一節を紹介しましょう。「ぼくたちはいつしか/なれっこになってしまっている/事実は絵空事となり/テレビこそが現実となる/今も数え切れない人々が泣き叫び/ぼくたちが食べたり飲んだりしているうちに/彼らは明日にも死んで行く」 この歌がきっかけでテロの対象リストにあげられたそうですが、彼らはこの歌を歌い続けました。そしてイエスが手にした勝利を確かめよう、と結ばれますが、憎悪を乗り越えた和解を呼びかけているのかもしれません。また「命は奪えても誇りまでは奪えない」と歌う"PRIDE"はマーチン・ルーサー・キング牧師へのオマージュ。愛の名のもとに、正義を訴え抵抗し革命を起こした"ONE MAN"というフレーズに心が揺さぶられます。
 わが敬愛する忌野清志郎氏がこうおっしゃています。「僕はね、ロックはメッセージだと思うよ。ロックでメッセージを伝えるのはダサイなんて言ってる奴は、ロックをわかっていないと思うな」 ある意味では、音楽はすべてメッセージだと思います。自分の思いを、(時には言葉を添えた)音に託して、聴衆の耳朶に届けようとする行為、それが音楽なのじゃないかな。流行に左右されず、商業主義に流されず、自分たちが伝えたい思いを、逞しいビートに乗せて力強く奏でる。それがU2の魅力のような気がします。もう少し聴き込んでみたいなと思い、"THE UNFORGETTABLE FIRE""THE JOSHUA TREE""HOW TO DISMANTLE AN ATOMIC BOMB"を購入。ひたぶるに耳傾けよ、空みつ英吉利言葉にこもらへるU2の音ぞある…

 牽強付会かもしれませんが、この優れたバンドを生んだアイルランドの文化にも思いを馳せてしまいます。芳醇な民謡の数々、言葉に対する鋭い感覚(ex.イエーツ、ショウ、ジョイス、ベケット…)、そして辛酸を嘗め尽くした歴史が育む政治意識。生まれるべくして生まれたバンドなのかもしれません。
by sabasaba13 | 2008-07-08 06:05 | 音楽 | Comments(0)
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