駿河編(11):坐漁荘(07.12)

 そして清見寺から先へ数分歩くと、坐漁荘に到着です。西園寺公望が晩年に暮らした別邸ですね。実は愛知県の明治村に移築され、ここにあるのは最近復元したものです。以下、岩波日本史辞典より引用します。
 西園寺公望(1849‐1940)、公家出身の政治家。最後の元老。京都生れ。徳大寺公純次男で、西園寺家養子となる。戊辰戦争では会津を攻略。木戸孝允らと交流を深め、邸内に家塾立命館を創設。フランス留学中、パリ・コミューン事件に遭遇、帰国後、中江兆民らと「東洋自由新聞」を創刊。のち文相、枢密院議長を歴任し、伊藤博文の後継者として立憲政友会総裁となる。1906年、第1次西園寺内閣を組織、鉄道国有化など日露戦争後の政情に対応。桂太郎と交互に組閣し、桂園時代とよばれたが、第2次内閣で2個師団増設問題が起り陸軍と対立して退陣、元老となる。19年、パリ講和会議全権を務め、牧野伸顕とともに対米英協調路線をとり、近衛文麿ら革新貴族と見解を異にした。昭和天皇の摂政時代から後継首相の奏薦にあたり、ロンドン軍縮問題後は米英との乖離を危惧、牧野内大臣や一木喜徳郎宮内大臣らとともに軍部や右翼の冒険主義に対抗。しかし満州事変や5.15事件など,相次ぐ謀略やテロにより政党内閣の慣行を維持しえず、高齢を理由に任を辞した。陶庵と号し、興津坐漁荘に引退。
 彼の事跡についてコメントをする力量はとてもありませんが、肝心なところで軍国主義・ファシズムへの動きを抑えられず、その背景には天皇に累が及ばぬようにするという配慮があったのではないかと思っています。徳富蘇峰が彼を評して「彼には三つの"in"がある。 intelligence(聡明)、indolence(無精)、indifference(無頓着)」と言ったそうですか、むべなるかな。辞世の言葉は「いったいどこへ国をもってゆくのや」、近衛文麿を首相として推挙したことを最後まで悔やんでいたようです。
 さあそれでは中に入ってみましょう。嬉しいことに入場は無料です。外観は何てことはない純和風の二階造り。
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 中には係員の方がいて、それはそれは懇切丁寧にいろいろと解説をしてくれました。本物を忠実に再現したようで、特に竹を多用した精緻にして雅趣あふれる装飾や設えには目を見張ります。一階の一室だけは洋間で、応接間として使われていたとのこと。
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 二階に上がるとそこは広々とした居間で、海や三保、日本平まで見張らすことができます。引退後も助言を求めてやってくる政財界の要人(いわゆる「興津詣で」)と、ここで会見したとのことです。それにしてもこれを建てるには、莫大な金がかかったろうなあ。設計は住友本社の建築技師・則松幸十、また「西園寺公と政局」の著者にして秘書の原田熊雄の報酬は住友からすべて支払われていた(月額100万円!)ことから、おそらく住友財閥から提供されたのでしょうね。興津駅のホームで写した写真が展示してありましたが、大滝秀治にくりそつ。
 去り際に、係員の方に「なぜ明治村に移築されてしまったのか」と訊ねたところ、もごもごと口を濁らせます。これは野暮な質問でしたね、間違いなく維持する費用が捻出できなかったためでしょう。それならば何故今頃、金をかけて復元したのかという疑問もわいてきました。玄関から出る時に、係の方が「当時、ここから出入りできたのはただ一人でした」とぼそりと呟きました。誰? もちろん近衛文麿です。
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 さてそれでは興津駅へと戻りましょう。清見寺の前にある観光地図を見ると、「興津駅北側にある農林水産省果樹試験場には、日本三大並木の一つ、プラタナス並木(北海道大学のポプラ並木・東京大学のイチョウ並木)があります」と書いてありました。後二者を見てきた私に対する挑戦状か、ようがす見にいきましょう。踏み切りを渡って駅の向こう側に出ると、試験場の門から葉のすっかり落ちたプラタナス並木を見ることができました。(立入りは禁止) しかあし、どこが日本三大並木の名に値するのでしょう??? この三者の選択に関しては疑問を抱きますね。歴史的に由緒があるということなのでしょうか。
 興津駅から再び東海道本線に乗り、三島へと向かいます。薩た峠のあたりで富士がきれいに見えたら、由比で降りてよってみようかな、などという色気をもったのですがすでに雲がかかっていたので初志貫徹、三島へ直行。なお坐漁荘の係の方の話では、二月十日ごろが空気が澄んでクリアに見えるし薄寒桜も見頃ということでした。捲土重来。

 本日の二枚です。
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by sabasaba13 | 2008-07-22 06:22 | 中部 | Comments(0)
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