「レイチェル」

 「レイチェル」(ダフネ・デュ・モーリア 務台夏子訳 創元推理文庫)読了。「書評家<狐>の読書遺産」で紹介されていたので、その好意的な書評に触発されて読んでみることにしました。
 主人公はイギリス・コーンウォールの青年領主フィリップ・アシュリー、彼の一人称による語りで物語は進められます。幼い頃に両親をなくした彼を育て庇護してくれた従兄のアンブローズが突然フィレンツェで結婚をし、彼は取り残されたような寂寥感を感じます。しかし彼は急逝、その妻となったレイチェルの責任ではないかと考えた<わたし>は彼女を憎みました。そしてアンブローズの遺産と土地を受け継ぐことになった<わたし>のところに、レイチェルが訪れることになります。はじめは反感を覚えていましたが、やがて彼女の美しさに身も心も奪われていきます。そんなある日、偶然にアンブローズが生前に書いた手紙を入手するのですが、そこには彼女に毒を盛られているのではないかという不安が綴られていました。レイチェルはアンブローズを毒殺したのか、そして今、<わたし>をも毒殺し財産を奪おうとしているのではないか、いやそんなことはありえない、フィリップの心は激しく揺れ動きます。そして…
 はい、勿論結末は書きません。驚天動地とまでは言いませんが、クライマックスがちゃんと用意されております。それにしても著者の表現力には脱帽ですね。レイチェルの何気ない物言い・仕草・服装、それにさまざまな意味を読み取り時には歓喜し時には絶望し時には憎悪するフィリップの心の揺らぎ、そしてコーンウォールの厳しくも美しい自然、時がたつのも忘れるような見事な描写でした。こうした上質のミステリーに出会えるのは、読書人のはしくれとしては何よりの喜びです。
 なお著者は「レベッカ」「鳥」を書かれたイギリスの作家、ヒッチコックの手による映画では見ましたが原作は未読です。今度はこの二作を読んでみようかな。
by sabasaba13 | 2008-10-11 07:29 | | Comments(0)
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