2008年 01月 30日 ( 1 )

「四丁目の夕日」

 「四丁目の夕日」(山野一 扶桑社文庫)読了。「ALWAYS 三丁目の夕日」という映画が大変な人気のようで、続編も公開されるそうですね。「ビッグコミック オリジナル」に連載が開始された時から、西岸良平氏による原作をしばらく読んだのですが、すぐに飽きてしまいました。あまりに単調で一本調子の絵にも辟易したのですが、恐ろしいぐらい美化された昭和30年代の暮らしに、その時代の端っこを生きた者として強烈な違和感を覚えたからです。それにしてもこのブームの正体は何なのでしょう。現在の息苦しさからの逃避なのでしょうか。あるいは今後私たちをさらなる貧困のどん底に落そうと舌なめずりをしている官僚・政治家・財界諸氏が、「貧乏人どうしが助け合えばこんな幸せな暮らしができるんだよおおおおお」というメッセージを刷り込むために、メディアを動員してつくりだしたブームかもしれませんね。しかしこの似非ユートピアとも言うべき漫画に、真っ向から異を唱える強烈な漫画があることを知りました。それが本書です。
 時代背景と舞台はほぼ同じ、下町の小さな印刷工場の息子の別所たけしが主人公です。善意にあふれた人たちであふれる「三丁目の夕日」に対して、本書では「他人のことなどどうでもいい、金がすべて」という人たちが次から次へと登場します。そして主人公に襲い掛かる、目を覆いたくなるような不幸の連続、そして… 善意に満ちた似非ユートピアに対する、悪意に満ちた似非アンチ・ユートピアです。現実はこの中間、やや四丁目よりにあったのではないかなあ。血と汗と嘔吐と膿が滴り落ちるような重いタッチ、そして情け容赦なく貧困を抉り出す台詞とト書きには圧倒されました。
 カネができなけりゃ腎臓でも角膜でも売ったれや。いいか、てめえら貧乏人はな、んなもの一コづつついてりゃたくさんなんだよ。

 この世には二種類の人間がいるんだ。…うん…まぁ一言で言ってしまえば"奉仕する人とされる人"かな。

 その後この二人は工場再建のための涙ぐましい努力をした。でもソーユー事とは全く無関係にやっぱり工場はつぶれてしまったのだった。すべての努力は全くの徒労であった。
 絶望的に貧しい生活を送るうち、次第に狂気を帯びてくる目には背筋が寒くなります。そう、貧困は人間をここまで追い込んでしまうのですね。「貧しいからこそ人と人との暖かい触れ合いがある」などという、為政者の甘言に騙されないようにしましょう。やはり貧困を世界からなくさなければ。かといって大量生産・大量消費に溺れる過剰な豊かさでは地球がもちません。人間の尊厳を冒さない程度の質素な暮らしをどうやって築いていけばいいのか、われわれに課せられたとてつもない課題です。

 あまりにも苛烈な内容と絵なので安易にお薦めはできませんが、一見の価値はある漫画だと思います。できれば「TOMORROW(TODAY?) 四丁目の夕日」というタイトルで映画化されないかなあ。安倍晋三元伍長が『美しい国へ』の中で、「ALWAYS」を絶賛したそうですが、「奉仕される」側に属するこの御仁にまっさきに試写会の招待券を送ってあげたいですね。
by sabasaba13 | 2008-01-30 06:01 | | Comments(0)