2010年 02月 09日 ( 1 )

「三文オペラ」

 「三文オペラ」(ブレヒト 岩淵達治訳 岩波文庫)読了。こんにゃく座のオペラ「変身」を見て、いたく面白かったことはすでにご報告しました。さっそく次なる公演、ブレヒトの「三文オペラ」を予約し、いよいよ間近に迫ってきた次第です。お恥ずかしい話、彼の作品をいまだ読んだことがありません。クルト・ワイルの曲は、ソニー・ロリンズの名盤「サキソフォン・コロッサス」に収められている「モリタート」を聴いただけ。せっかく岩波文庫にラインアップされていることだし一読して公演にのぞむことにしました。
 時は二十世紀のはじめころでしょうか、場所はロンドン、主人公は悪党、メッキー・メッサー(匕首のメッキー)です。多くの手下を動かして、泥棒・殺人のやり放題。そして無類の女好きの彼は、大規模な乞食ビジネスを経営するピーチャムの娘ポリーと結婚しますが、同時に娼婦ジェニーと、警視総監の娘ルーシーとに三つ股をかけています。娘を奪われたことに怒ったピーチャムはメッサーを警察に密告、そして逮捕、脱獄、そしてまた密告、逮捕というすったもんだの挙句、絞首刑の判決が下されます。陳腐なお芝居でしたら、ここで馬にまたがった使者が駆けつけ、執行の寸前に女王陛下の恩赦を告げてめでたしめでたしとなるところですが… なんと、馬にまたがった使者が駆けつけ、執行の寸前に女王陛下の恩赦を告げてメッサーは助かります。そのうえ貴族に叙され、城館と年金一万ポンドを与えられるというおまけつき。最後に悪は勝つ!
 というよりも、彼がやった程度の悪さなんざ、大企業や銀行の悪行に比べれば、恩赦や叙勲に値するぜ、というブレヒトの強烈な皮肉でしょう。登場人物たちの科白をいくつか紹介します。
 人間はみな悪人ばかり。この世にゃ天国はねえ この世のしくみがそうさせねえ〔だろ?〕 [ピーチャム]  (p.89)

 悪いことはしちゃいかん 正直に暮らせよと 俺たちに説教する前に まず食う物をよこせ。自分はうまい物をくい 俺たちにゃ道徳かい? まず食う物をよこせ。分け前にありつけりゃ 道徳も持ってやるぜ。[メック] (p.149)

 ここにいる私は、没落しつつある階級の、没落しつつある代表者であります。われわれ市民階級のはしくれであるマニュファクチャーの職人は、時代遅れの鉄梃なんかを使って、中小企業のケチな金庫をこじあけるような仕事をしているうちに、大企業に呑み込まれてしまうのです。大企業の背後には銀行が控えています。銀行強盗に使う合鍵など、銀行の株券に比べれば何でありましょう。銀行強盗など、銀行設立に比べれば子ども騙しの仕事に過ぎません。[メック] (p.205)

 不正をあまり追求するな この世の冷たさに遭えば、不正もやがて凍りつくさ 考えろ、この世の冷たさを。[全員] (p.213)
 資本主義というシステムの不公正・不公平を糾弾・批判し、それと戦い続けたブレヒト。そしてナチスによってドイツを追われ、亡命を余儀なくされる己の後半生を予言するかのようなジェニーの科白もありました。「知りたがり屋のブレヒト! やたらに疑問を投げかけて 富の由来を尋ね過ぎ 国外追放になった! 知りたがりだったこの私 その私の末路を 知らぬ者はない (p.176)」 現代社会にやたらと疑問を投げかけ、その秘密を知ろうとし、それを劇+音楽という形で笑いとばし挑発した彼の生き様がすみずみまで満ち溢れた作品です。またこの作品に関するブレヒトの覚書も収められており、彼の創作活動の一端がうかがわれます。「流血は最小限にとどめ、それを合理化することがビジネスの原則である。(p.222)」という一文が強烈。
 さてこの作品をこんにゃく座がどう演ずるのか、楽しみです。
by sabasaba13 | 2010-02-09 06:09 | | Comments(0)