2017年 02月 27日 ( 1 )

素晴らしき日曜日

 昨日は小春日和の素晴らしい日曜日でしたね。そういえば『素晴らしき日曜日』(監督:黒澤明)という名画がありましたっけ、今度購入して見てみましょう。閑話休題、午前九時から仲間とテニスなのですが、今回のコートは初めてです。練馬区の「石神井松の風文化公園」内にあるコートで、かつては日本銀行の運動場だったそうです。仲間の談によると、なかなか環境の良いコートだそうで、これは楽しみです。自転車で行く手もあったのですが、ちょっと遠いと山ノ神が言うので電車で行くことにしました。西武池袋線に乗ると、富士山の山頂がビルの谷間からくっきりと見えました。ああカメラを持ってくるべきだったと悔やみましたが、あとの祭り。石神井公園駅で降りて、富士街道をてくてくと歩いていきます。名前から想像するに、富士講などで富士山に向かう人びとが歩いた道なのでしょうね、しかし建物が林立し正面に富士山の「ふ」の字も見えません。十数分歩くとコートに到着です。なるほど、石神井公園に隣接しており、武蔵の面影を残すような木立のある好環境です。コートは七面で人工芝、申し分ありません。管理棟に手続きに行くと、そこは「ふるさと文化館分室」を兼ねており、「田沼武能肖像写真展 時代(とき)を刻んだ貌(かお)」が開催されていました。テニスが終わったらこの展覧会を見て、こちらの喫茶で食事をして、三宝寺池を散策することにしましょう。
 半袖でも汗ばむような陽気でほぼ無風、テニスをするには理想的なお天気のもと、心地良い汗を流して二時間テニスを満喫しました。ボレー・ミスを連発したのが反省点ですね、やはりフットワークとステップインが大事です。ダブル・フォルトがなかったので、これは自分を褒めてあげましょう。当たり前だと言われた返す言葉もありませんが。そして別れ際に仲間と花見の計画を立てて散会しました。

c0051620_21392288.jpg そして「ふるさと文化館分室」へ。その中にある「練馬区ゆかりの文化人に関する展示室」へ入ると、檀一雄の書斎が再現されていました。練馬区に住んだ文化人リストがあったのですが、私の知っている方として、石ノ森章太郎、大塚久雄、草野心平、坂本太郎、瀬戸内寂聴、祖父江孝男、ちばてつや、手塚治虫、野村万作、馬場のぼる、弘兼憲史、藤沢周平、前橋汀子、牧野富太郎、松本清張、松本零士、我妻栄、和辻哲郎が挙げられていました。そしてとなりのスペースで開催されている「田沼武能肖像写真展 時代(とき)を刻んだ貌(かお)」を鑑賞。ホームページから引用します。
 写真家・田沼武能(たぬまたけよし・1929~)は、"人間のドラマを見つめること"をテーマに、これまでに多くの著名人や子どもたち、世界各国の人々の姿を撮り続けてきました。
 東京市浅草区(現・東京都台東区)に生まれた田沼は、幼い頃から父の営む写真館で写真とともに育ち、東京写真工業専門学校(現・東京工芸大学)卒業後、木村伊兵衛(1901~1974)のもとで写真家への道を歩み始めます。新潮社の嘱託のころ「芸術新潮」や「新潮」の撮影を担当したほか、フリーランスとなってからは世界に活動の幅を広げ「LIFE」や「FORTUNE」などの撮影を皮切りに、国内外問わず活躍するようになりました。
 「すべての人間は、他人の中に鏡を持っている」(ショーペンハウエル)という言葉に共鳴する田沼は、「人間」との出会いを第一に、被写体の生きてきた人生そのものを温かなまなざしから写しだすとともに、また自身の姿を見出し投影してきた写真家です。
 本展では、田沼の撮影した練馬区にゆかりのある作家、五味康祐、檀一雄、松本清張らの肖像写真20点をご覧いただきます。
 へえー、木村伊兵衛に師事したんだ。つい先日に『戦争のグラフィズム 「FRONT」を創った人々』(多川精一 平凡社ライブラリー)を読み終えたばかりなので、不思議な縁を感じます。彼は東方社と「FRONT」には関わっていなかったようですが。展示されていたのは、和辻哲郎、草野心平、松本清張、檀一雄、五味康祐、庄野潤三、瀬戸内寂聴、野坂昭如、三浦哲郎、山田風太郎、藤沢周平の肖像写真でした。やはり一家をなす方の風貌は魅力的ですね。もちろんそれを引き出してフィルムにおさめた田沼氏の技量もお見事です。中でも松本清張の気骨、藤沢周平の飄逸、そして野坂昭如の含羞が印象に残りました。とあるバーのカウンターで酒を飲む、破顔一笑の檀一雄と仏頂面の松本清張も面白い一枚。解説によると、ここは銀座のバー「クラクラ」で、二人の間で微笑むマダムは坂口安吾未亡人だそうです。何を隠そう、私、安吾のファンで、以前に桐生新潟で安吾物件を拝見しました。奥さんはさぞ大変だったろうなあ。気になったので、いまインターネットで調べてみると、坂口三千代という方でした。獅子文六が命名した文壇バー(なんだそれは)「クラクラ」を経営し、『クラクラ日記』(ちくま文庫)という随筆も書かれているそうです。こんど読んでみようかな。

 展示室から出たところに古本交換会で残った本が置いてあり、持ち帰り自由とのことなのでさっそく物色。『或阿呆の一生・侏儒の言葉』(芥川龍之介 角川文庫)と『ドイル傑作集Ⅳ -冒険編-』(コナン・ドイル 新潮文庫)をいただきました。また掲示してあった周辺地図によると、練馬区の名木、權藤家のスダジイとハクモクレンが近くにあるので、後で寄ってみることにしましょう。
 そして二階へ、こちらには五味康祐の「資料展示室」と「オーディオ展示室」がありました。氏は時代小説を執筆するとともに、クラシック・オーディオ評論家としても名を馳せておりました。私も昔、『五味オーディオ教室』(ごま書房)を読んだ記憶があります。彼の遺品とオーディオ機器を練馬区に無償譲渡されて、ここで公開されています。そのオーディオによるレコード・コンサートが月一回開かれ、また毎週火・水曜日にはメンテナンス(音出し)が行なわれているとのことです。展示されていたタンノイからどんな音が響き渡るのか、ぜひ聴いてみたいものです。多目的室には、これは彼の遺品であるベーゼンドルファーのピアノが置いてありました。事務室に寄って、レコード・コンサートの予定表をいただき、田沼武能氏の写真絵葉書を購入しました。昭和36年の浅草で撮影したもので、ろう石で道路に絵を描いている子供たちの写真です。私もしたことがありますが、道をキャンバスにして、ろう石で絵を描くというのは素晴らしい体験でした。今の子供たちに味合わせてあげたいものです。

 そして喫茶室で、私はミートソース、山ノ神はペペロンチーノのスパゲティをいただきました。味は…言わぬが花。でも食後の珈琲と紅茶は美味しかったですよ。外へ出て隣接する三宝寺池のほとりを歩いていると、ヒキガエルがのそのそと道を横切りました。そうか、間もなく啓蟄ですね。カエルを見るのは久しぶり、何となく嬉しくなりました。ベンチには老若男女のみなさまが座り、思い思いに小春日和を楽しんでおられましたが、お弁当を食べている方のところへ、みすぼらしい野良猫が物欲しげにのそのそと近づいていきます。ご相伴にあずかれたのかな。すこし先へ行くと、カメラを構えた方々が立ち並んでいましたが、石神井公園名物、カワセミの撮影です。すると近くにいた年配の女性が、「あそこにいますよ」と枝々の間にいるカワセミを教えてくれました。おおっ、宝石のように美しい鳥ですね。
 売店の脇を通ると、野良猫「みいちゃん」の写真が貼ってあり、チーズの入ったお菓子は吐いてしまうのであげないでくださいと注意書きがありました。さきほど見かけた猫ですね。すると売店の女性が出てきていろいろとお話をしてくれました。かなりの高齢で、ときどきボランティアの方が動物病院に連れていくそうです。この前は口内炎を治療したそうな。でもけっこう元気に飛び跳ねているそうです。そうか、さっきの仕草は食べ物欲しさの演技、猫かぶりだったのかもしれないな。

 權藤家のハクモクレンは見事な枝ぶりにたくさんの蕾をつけ、間もなく開花です。もうしばらくしたら見にきたいものです。駅に向かう途中にあった東京ガスライフバルに寄って、電気需給契約についての手続きを教えてもらいました。一刻も早く、無責任・没義道な東京電力との縁を切ろうと思っています。石神井公園駅から列車に乗って、さきほどいただいた「侏儒の言葉」を斜め読みしていると…やった。岩波文庫には収録されていない補輯「ある自警団員の言葉」がおさめられていました。今、関東大震災時の虐殺についてずっと追いかけているのですが、どうしても読みたかった一文です。註によると、いったん雑誌に発表したが、単行本にまとめる際に筆者が削除した一編だそうです。これは嬉しい。
 家に戻り、陽だまりのなかで小一時間ほど昼寝。そしてアーノンクールの『ドン・ジョヴァンニ』を小さな音量で流しながら、村上春樹氏の新作『騎士団長殺し』(新潮社)をしばらく読みました。夕食は、山ノ神が二日がかりでつくってくれたビーフ・シチューに舌鼓、たいへん美味しゅうございました、いやほんと。「日曜美術館」を見ながら食休みをした後、J・S・バッハの「無伴奏チェロ組曲」第5番のプレリュードを集中して練習。とてつもなく難しいのですが、大好きな曲なので何とかものにしたいと思います。

 事件もなく、お金もさほど使いませんでしたが、素晴らしい日曜日でした。花森安治曰く、「日々の暮らし以上に、かけがのないものはない」。

 追記。寝る前に布団にくるまれて『騎士団長殺し』を読んでいたら、次の一文がありました。
 彼はモーツァルトのレコードを選んでかけた。「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」。タンノイのオートグラフは派手なところはないが、深みのある安定した音を出した。クラシック音楽、とくに室内楽曲をレコード盤で聴くには格好のスピーカーだ。古いスピーカーだけに、とくに真空管アンプとの相性が良い。(第1部p.246~7)
 恐ろしいぐらいの偶然ですね。だから人生は面白い。
by sabasaba13 | 2017-02-27 06:34 | 鶏肋 | Comments(0)