2017年 08月 31日 ( 1 )

関東大震災と虐殺 2

 二つめ、被害者の数を明示していないこと。もちろん正確な数字がわからないのは重々承知しておりますが、研究の進展によって概数はほぼ明らかになっていると思います。研究者の松尾章一氏によれば、朝鮮人が六千人以上、在日中国人が七百人以上です。〔『世界史としての関東大震災』(関東大震災80周年記念行事実行委員会編 日本経済評論社) p.4〕
 三つめ。事件発生直後から、政府・軍・警察がその真相を隠蔽したこと。そして現在にいたるまで、政府は虐殺の責任を認めず、遺族に謝罪せず、犠牲者やその遺族についての調査を行なっていないこと。これらについてこの教科書は一切ふれていません。
 四つめ。「流言」の内実についてふれていないこと。民衆によるものだけではなく、内務省・軍・警察が率先して流言を発信していたことが明らかになっています。
 五つめ。「人為的な殺傷行為」「多くの朝鮮人が殺傷された」とあるように、殺傷(虐殺)を行なった主体がぼかされていること。これも軍や官憲の責任を曖昧にするための所為でしょう。
 六つめ。戒厳令についてふれていないこと。大辞林によると、戒厳とは「戦時またはこれに準じる非常事態の際、立法・行政・司法の事務の全部または一部を軍隊の手にゆだねること」です。この関東大震災において戒厳令を施行したということは、政府が「戦時またはこれに準じる非常事態」であると認定したことを意味します。つまり朝鮮人に対する戦争ですね。民衆が大規模な殺戮におよんだのも、戒厳令によって「朝鮮人=敵、つまり殺してもかまわない」という意識が蔓延したからではないでしょうか。これはきちんと指摘すべきでしょう。
 そして最後に指摘したいのは「市民・警察・軍がともに例外的とは言い切れない規模で武力や暴力を行使した」という表現です。"例外的とは言い切れない規模"??? このまわりくどい物言いの意図は何なのでしょう。ちょっと穿った見方をすれば、「日本の市民・警察・軍が大規模な虐殺を行なった事例は、例外的なものではなく、しばしばあった」という叙述にしようとした著作者に対して、文部科学省が圧力をかけた可能性もありますね。国家と民衆が犯した罪を明記しようとした著作者と、国家の犯罪をできるだけ隠蔽したい文科省官僚のせめぎ合いによって、このような隔靴搔痒的文章になったのかもしれません。

 というわけで、教科書に頼ってはいられません。自分なりにいろいろと調べたことを披露したいと思います。参考文献を下に列挙しておきました。本文中の丸数字は、当該文献を指しています。

①『関東大震災・虐殺の記憶』 (姜徳相 青丘文化社)
②『戒厳令』 (大江志乃夫 岩波新書37)
③『関東大震災と朝鮮人虐殺』 (姜徳相・山田昭次・張世胤・徐鐘珍ほか 論創社)
④『震災・戒厳令・虐殺』 (関東大震災85周年シンポジウム実行委員会編 三一書房)
⑤『関東大震災と朝鮮人虐殺 80年後の徹底検証』 (山岸秀 早稲田出版)
⑥『関東大震災時の朝鮮人虐殺とその後 -虐殺の国家責任と民衆責任』 (山田昭次 創史社)
⑦『関東大震災と戒厳令』 (松尾章一 吉川弘文館)
⑧『関東大震災』 (吉村昭 文春文庫)
⑨『九月、東京の路上で 1923年関東大震災 ジェノサイドの残響』 (加藤直樹 ころから)
⑩『関東大震災と中国人 王希天事件を追跡する』 (田原洋 岩波現代文庫)
⑪『地域に学ぶ関東大震災』(田中正敬・専修大学関東大震災史研究会編 日本経済評論社)
⑫『大正大震災 -忘却された断層』 (尾原宏之 白水社)
⑬『世界史としての関東大震災 アジア・国家・民衆』 (関東大震災80周年記念行事実行委員会編 日本経済評論社)
⑭『地域に学ぶ関東大震災 千葉県における朝鮮人虐殺 その解明・追悼はいかになされたか』 (田中正敬・専修大学関東大震災史研究会編 日本経済評論社)
⑮『いわれなく殺された人びと 関東大震災と朝鮮人』 (千葉県における追悼・調査実行委員会編 青木書店)

 追記です。「釜山聯合ニュース」(17.8.30)によると、1923年の関東大震災時に起きた朝鮮人虐殺事件の被害者遺族が、真相究明と賠償を求めるために遺族会を立ち上げたとのことです。日韓の協力で歴史の闇を、白日の下に晒してほしいですね。期待しています。
by sabasaba13 | 2017-08-31 07:55 | 関東大震災と虐殺 | Comments(0)