2017年 09月 13日 ( 1 )

関東大震災と虐殺 8

 こうした前史や状況のなか、1923年9月1日土曜日午前11時58分32秒、運命の時がやってきました。相模湾一帯を震源とするマグニチュード7.9の巨大地震が発生、いわゆる関東大震災です。被害は主に関東南部から静岡県にかけて広がり、地震の発生がちょうど昼時だったこともあり、東京・横浜では大規模な火災が発生し、各地に甚大な人的・物的被害をもたらしました。

 なおこの激甚なる大災害に対して、僧侶・仏教学者の木村泰賢が、次のように指摘していることを紹介しましょう。
 日本は世界に於ける有力なる地震国であり、殊に関東一帯は昔より屡々大小の地震に襲はれ其都度、相当の被害のあつたことは、記録の吾人に明示する以上、言はゞ自然は常に今回の大事変に対する予告を与へつゝあつたにも関らず、吾等は之に多くの顧慮を費やすことなく漫然とその〔自然の〕和平に信頼して特殊の防備を施すことなくして通過して来た…殊に京浜にありては目前の急に逼られて何等の基礎的計画もなく漫然、雑然と疎末な家屋を併立し遂には抜き差しの出来ない程の状態に到らしめたことゝて、一朝大地震の来るあらば…忽ちにして今回の如き惨事を来たすべきや心ある人ならば容易に気付き得べき筈ではなかつたか (「災害と其道徳的意義」 『太陽』11月号)
 震災前から多くの学者や建築家が都市計画の抜本的改革を訴え、防火建築の政策的推進を呼びかけていたにもかかわらずそれらは無視され、この大惨事を招いたのですね。(⑫p.55~6)
 世界でも有数の天災発生国・日本であるにもかかわらず、政府当局の人命軽視と無定見を痛感させられます。軍事費の何分の一かでも防災につぎこんでいれば、ここまで被害は大きくならなかったでしょう。なお物理学者・寺田寅彦が、この点について後に『天災と国防』(1934.11)という随筆で鋭く批判しています。現在の私たちも耳を傾けるべき重要な指摘ですので、紹介します。
 日本はその地理的の位置がきわめて特殊であるために国際的にも特殊な関係が生じいろいろな仮想敵国に対する特殊な防備の必要を生じると同様に、気象学的地球物理学的にもまたきわめて特殊な環境の支配を受けているために、その結果として特殊な天変地異に絶えず脅かされなければならない運命のもとに置かれていることを一日も忘れてはならないはずである。

 戦争はぜひとも避けようと思えば人間の力で避けられなくはないであろうが、天災ばかりは科学の力でもその襲来を中止させるわけには行かない。その上に、いついかなる程度の地震暴風津波洪水が来るか今のところ容易に予知することができない。最後通牒も何もなしに突然襲来するのである。それだから国家を脅かす敵としてこれほど恐ろしい敵はないはずである。

 国家の安全を脅かす敵国に対する国防策は現に政府当局の間で熱心に研究されているであろうが、ほとんど同じように一国の運命に影響する可能性の豊富な大天災に対する国防策は政府のどこでだれが研究しいかなる施設を準備しているかはなはだ心もとないありさまである。思うに日本のような特殊な天然の敵を四面に控えた国では、陸軍海軍のほかにもう一つ科学的国防の常備軍を設け、日常の研究と訓練によって非常時に備えるのが当然ではないかと思われる。陸海軍の防備がいかに充分であっても肝心な戦争の最中に安政程度の大地震や今回の台風あるいはそれ以上のものが軍事に関する首脳の設備に大損害を与えたらいったいどういうことになるであろうか。そういうことはそうめったにないと言って安心していてもよいものであろうか。わが国の地震学者や気象学者は従来かかる国難を予想してしばしば当局と国民とに警告を与えたはずであるが、当局は目前の政務に追われ、国民はその日の生活にせわしくて、そうした忠言に耳をかす暇(いとま)がなかったように見える。誠に遺憾なことである。

 人類が進歩するに従って愛国心も大和魂もやはり進化すべきではないかと思う。砲煙弾雨の中に身命を賭して敵の陣営に突撃するのもたしかに貴い日本魂であるが、○国や△国よりも強い天然の強敵に対して平生から国民一致協力して適当な科学的対策を講ずるのもまた現代にふさわしい大和魂の進化の一相として期待してしかるべきことではないかと思われる。天災の起こった時に始めて大急ぎでそうした愛国心を発揮するのも結構であるが、昆虫や鳥獣でない二十世紀の科学的文明国民の愛国心の発露にはもう少しちがった、もう少し合理的な様式があってしかるべきではないかと思う次第である。

by sabasaba13 | 2017-09-13 06:26 | 関東大震災と虐殺 | Comments(0)