2017年 11月 04日 ( 1 )

近江編(46):豊郷小学校旧校舎群(15.3)

 途中に「中山道 一里塚の郷石畑 ごんろく通り」という気になる案内板もありましたが、時間の都合で探訪は省略。このあたりにも「飛び出し小僧」が出没していました。
c0051620_6153597.jpg

 豊郷駅から十分すこし歩くと、「豊郷小学校旧校舎群」にとうちゃこ。1937(昭和12)年に近江商人、商社「丸紅」の専務であった古川鉄治郎によって寄贈され、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計によって建てられました小学校です。当時は「白亜の殿堂」「東洋一の小学校」と言われたそうですが、これは素晴らしい。切れ味鋭いシャープな造形、リズミカルに並ぶ大きな縦窓、さすがはヴォーリズです。内部も見学ができるのでさっそく中に入ると、大きな窓から陽光が燦々とふりそそぐ明るい廊下が印象的。階段手摺の洒落た意匠、そしてイソップ寓話から着想を得たのでしょう、競争をする兎と亀の小さなブロンズ像が手摺の上に設置されています。歩みが遅くとも着実に進めば、努力は必ず実を結ぶ、という子供たちへのメッセージでしょうか。この学び舎で幼時を過ごした子供たちは、大人になってもきっとこの像を思い出すでしょうね。また、子供たちのために階段や手すりを低くし、ぶつかっても大怪我にならないように丸みを帯びた作りにしています。暖房設備などにも当時最先端の技術を惜しみなく使用し、その総工費は365,000円に上ったそうです。(当時の豊郷町予算の10倍!)
c0051620_616820.jpg

 こんな校舎で勉強をしたかったなと思いつつ、中を徘徊しているとふと疑問が脳裡をよぎりました。なぜ、現役校舎として使用していないのか? 今、「ウィキペディア」で調べてみると、興味深いことがわかりました。1999(平成11)年、大野和三郎町長が、老朽化と耐震性を理由としてこの校舎の解体と新校舎の建設を提案、町議会もこれを賛成多数で承認しました。しかし、地元町民からは歴史のある校舎を取り壊すことに反対する意見が出され、裁判所への提訴、解体工事の強行、作業員による反対住民への暴行など、すったもんだの挙句、大野町長は突然方針を撤回。新校舎を建設しながらも旧校舎を保存することになりました。なぜ町長は、こんな素敵な校舎を解体して、新校舎の建設に固執したのか。公共事業による地域活性化や、建設業者の桑原組と大野町長との癒着などを指摘する声がありますが、真相は藪の中。
 解体されなかったのは僥倖でしたが、改修・補修により十分に利用可能との専門家の意見もあるのですから、豊郷の子供たちにここで学ばせてあげたかったですね。利権の匂いがぷんぷんする事件ですが、なんたる偶然、内田樹氏が同じヴォーリズ建築に関して似たような経験をされたそうです。『日本の覚醒のために 内田樹講演集』(晶文社)から引用します。
 これまで何度もした話ですけれど、いまから20年以上前、僕が神戸女学院大学に勤め始めて4年目の時、ある銀行系のシンクタンクが入ってきて、大学内の財務内容についてコンサルティングをしたことがありました。その時に、神戸女学院の建物を見て「この建物は無価値です」とゼロ査定した。「築60年の建物なんか、これから先、修理や耐震工事とかで金がかかるばかりだ。こんな建物を維持してゆくのはドブに金を捨てるようなものです」と言い切った。
 神戸女学院の学舎は、ウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計した建物の中でも屈指の傑作です。外形的に美しい建物であるというだけでなく、中にいると心が鎮まります。声の通りもすばらしい。その建物で日々を過ごしている人間たちの実感をコンサルタントはみごとに無視した。彼らがカウントしたのは、坪単価とか築年数というような数字だけでした。そして「無駄だから壊せ」と言った。もちろん、教授会はその提案を一蹴しました。
 コンサルタントたちがその価値をゼロ査定したヴォーリズの校舎は2014年、国の重要文化財に指定されました。現役の校舎としての指定は珍しいものです。今もその校舎の中で研究教育が行われて、礼拝が行われ、クラブ活動が行われている。そういう環境の中でキャンパスライフが送れるということは、生徒学生たちにとってはほんとうに得がたい幸運だと思います。でも、いずれ重要文化財に指定されるような建物の価値がこのコンサルタントたちには感知できなかった。それが僕には信じられないのです。だって、この建物が他と違う、特別なものだということは、建物の中に一歩足を踏み入れれば誰だってわかるはずのことだからです。空気が清浄で、粒子の肌理が細かくて、そこにいるだけで心身が調うことが実感される。にもかかわらず、このビジネスマンたちにはそれがわからなかった。世の中に彼らの手持ちの金勘定の道具だけでは価値が考量できないものがあるということがわからなかった。
 でも、そういう愚かな人間たちがいまの日本社会を支配しています。いまの日本人に一番欠如しているものはそれです。霊的感受性が鈍麻している。霊的に浄化された空間に踏み込んだときに、ここは世俗とは別の場だということさえ感知できない。(p.92~3)
 金勘定でしか物事を判断できない愚かな人間たちがいかに多いことか。そして金銭価値が最高の判断基準となってしまった日本社会。自分も含めて、猛省すべき時だと思います。

 なおバンドを組む女子高生たちが主人公の『けいおん』というアニメに登場する高校の校舎・音楽室が旧豊郷小学校とそっくりだということから、アニメファンの聖地となっているそうです。アニメにはまったく食指が動かない私、どうでもいいことですが。

 追記。階段手摺にある兎と亀の像を山ノ神に見せたら、彼女曰く「これって、子どもたちが、手摺をまたいで滑らないようにするためじゃない」。…鋭い!

 本日の四枚です。
c0051620_6163973.jpg

c0051620_617199.jpg

c0051620_6172412.jpg

c0051620_6174777.jpg

by sabasaba13 | 2017-11-04 06:19 | 近畿 | Comments(0)