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松本・上高地編(1):白馬(09.5)

 青鬼(あおに)の棚田をご存知ですか。一度写真で見た時から脳裡と瞼に焼きついてしまいました。残雪をいただく白馬三山を前方に望み、その山影と青空を水が張られた水田が映し出す、なんともはや美しい光景でした。これは是が非でもこの目で拝んでみたい。ガイドブックやインターネットで調べてみると、このあたりの田植えの時期は五月の下旬頃のようですので、一念発起、代休をからめた去年の五月末の三連休に行ってみることにしました。所在地は長野県、松本から北にのびるJR大糸線の信濃森上駅から、車で十分ほどのところにあるそうです。公共輸送機関はないので、タクシーを利用するしかありません。信州に行くとなると、未踏の地・上高地もぜひ訪れてみたいですね、新緑と残雪がきっときれいだろうなあ。上高地までは松本から、松本電鉄+バスを乗り継ぎ二時間ほどで行けるとのことです。よって松本に二泊することで宿は決まり。これに松本市内の見物を加えましょう。以前に松本城と開智学校を駆け足で訪れたことがあるのですが、もう一度拝見する価値のある物件です。さらに「歩く地図8 松本・上高地」(山と渓谷社)を見ると、野麦峠にあった製糸女工宿「宝来屋」や諏訪にあった旧昭和興業製糸工場を移築保存し、野外展示してある松本市歴史の里、旧山辺学校を展示する教育文化センター、旧制松本高等学校校舎を展示するあがたの森公園があることがわかりました。うん、これも是非見てみたい。いずれも市街地からやや遠いところにあるので、現地でバスの便を確認し臨機応変に訪問することにしましょう。そしてこれも未踏の地・安曇野と、「小さな町小さな旅 関東・甲信越」(山と渓谷社)で紹介されていた須坂(すざか)の古い町並みも歩きたいな。はい、これで大まかな骨格が定まりました。
 第一日目。大宮→長野に新幹線で移動、長野電鉄に乗り換えて須坂を訪問。長野から篠ノ井線で松本に行き、松本市内を見物。そして松本泊。
 第二日目。朝早く大糸線で信濃森上まで行き、タクシーを利用して青鬼の棚田へ。ここではたと行き詰まりました。大糸線を走る列車の本数が極端に少なく、信濃森上近辺に三時間ほど留まらざるをえなくなります。これは困った、かなり時間のロスだ… しかしあきらめたらそこで試合終了です、いろいろと調べてみると、となりの白馬駅からも車で十分ほどで青鬼の棚田にいけることが判明しました。白馬だと、八方尾根へのリフトがあって散策もできるようです。ここで適宜時間をつぶして、安曇野へ行くことにしましょう。そして松本泊。
 第三日目。できるだけ朝早い時間に上高地へ行き、ゆっくりと逍遥。そして松本に戻って、見残したところを見物し、特急「あずさ」で帰郷。うん、これでいきましょう。
 しかし直前の天気予報によると、二日目に雨が降る確率が高そうです。雨の棚田と上高地はちょっと悲しいなあ、これは旅程を組み替えたほうがよさそうです。こうした臨機応変なフットワークの軽さが個人旅行の大きなメリットですね。第一日目と第二日目を入れ替えて、まず青鬼の棚田に行くことにしましょう。インターネットで列車の時刻表を調べてみると、7:30新宿発南小谷(おたり)行き特急「あずさ3号」を発見。なんと白馬駅まで直通で、11:28に到着です。おまけに安曇野のある穂高駅への列車(※信濃大町で乗り換え)が13:24発、棚田を見て、昼飯を食べて、白馬の町を散策してちょうどいい時間ですね。そして安曇野を散策して松本泊。二日目は、須坂と松本市内の見物。三日目は変更なし。紆余曲折、すったもんだの挙句、やっと旅程が決まりました。なお持参した本は、「毒ガス開発の父ハーバー 愛国心を裏切られた科学者」(宮田親平 朝日選書834)と、「帝国・国家・ナショナリズム 世界史を衝き動かすもの」(木村雅昭 ミネルヴァ書房)です。

 好月好日、7:30新宿発南小谷(おたり)行き特急「あずさ3号」に乗り込みました。最近のウォーキング・ブームからして列車が混雑するような予感がしたので、念のために指定席をおさえておきました。実際にはそれほどの混雑ではありませんでした。雲は多いけれども晴れ間も見えるまずまずの天気、やはり旅程を組み替えて正解でした。駅で買ったサンドイッチをほおばり、本を読み、車窓を流れる風景を眺めていると、あっという間に列車は塩山、そして甲府を駆け抜けていきました。新緑に染まった里山を美しく映し出す、水を張った鏡のような水田には目を奪われます。この時期の光景はほんとうに美しいですね。
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 そして諏訪湖を遠望しながら、列車は上諏訪、下諏訪、岡谷と進み、進路を北へ変え松本に到着。そして大糸線に入り、さらに列車は北行していきます。このあたりから残雪をいただく北アルプスの山容を見ることができました。よかった、残雪と水を張った棚田という絶好のシチュエーションに出会えそうです。穂高を過ぎると、フォッサマグナがつくった三つの湖、仁科三湖の東岸を列車は疾走していきます。南からウォータースポーツがさかんな木崎湖、ヘラブナやウグイなど釣りが楽しめる中綱湖、日本有数の透明度を誇る青木湖ですね。そして11:28に予定通り白馬駅に到着。駅前に出ると、おおっ、雪をいただく白馬の山々が迫るように屹立しています。
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 駅のとなりにある観光案内所で地図をもらいざっと眺めてみると、眺望ポイントとして大出の吊橋が紹介されています。よし、青鬼の棚田を見た後、運転手さんに頼んでここにも寄ってもらいましょう。美しい山並みを堪能しながら紫煙をくゆらせていると、スーツ姿の男性が近づいてきて「観光ですか?」と声をかけてきます。白馬村観光局の方でもなさそうだし、どうやら宗教関係の方らしいですね。四方山話をすこしして、「家族として生活を楽しむ」という小さなパンフレットをくれると、立ち去っていきました。やはり「エホバの証人」の信者の方でした。

 本日の一枚です。
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by sabasaba13 | 2010-02-18 07:00 | 中部 | Comments(0)

根川緑道編(2):(09.4)

 なおこちらには遊歩道にそっていくつかの歌碑・句碑がおかれていました。若山牧水の「多摩川の浅き流れに石なげてあそべば濡るるわがたもとかな」、水原秋桜子の「初日さす松はむさし野にのこる松」などなど。中でもがつんと感銘を受けたのが中村草田男の句、「冬の水一枝の影も欺かず」です。言葉の力って凄いものですね、凛冽とした冬の景色が目に浮かぶようです。
 一時間ほど逍遥して身も心も桜色、それでは帰りましょう。東中野でちょっと道草、来る途中に車窓から見かけた桜並木と菜の花をたずねてみました。改札を出て中野方面にすこし歩き山手通りを渡ると、中央線に沿った土手で見事に咲き誇る桜と菜の花がお出迎え。ただ残念ながら金網があるため、あまり風情はありません。それでも行き交う列車と満開の花を撮ろうと、鉄ちゃん・鉄子さんたちが跨線橋の上で三脚をセットして待ち構えています。ふと気がつくと、「ドーカン」という地味な洋菓子店があり、ジェラートを手にした客が出てきます。俺の目を見ろ何にも言うな、互いに見合す顔と顔、即入店して綴じ蓋は甘夏ヨーグルトとラムレーズン、割れ鍋はトマトレモンと桜ミルクを注文。しっかりとした味で美味しかったですよ。
 さてついでにもう一箇所まわりますか。地下鉄都営十二号線の豊島園駅で降りると、すぐ近くを石神井川が流れています。ここの桜並木は圧巻、川面にふりそそぎ流れ落ちるような桜花に心はうちふるえます。惜しむらくは、無粋に切り立つコンクリートの護岸、風情を木っ端微塵に砕きますが、ま、このおかげで洪水がなくなったそうなのでいたし方ないでしょう。

 本日の二枚です。
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by sabasaba13 | 2010-02-17 06:10 | 東京 | Comments(0)

根川緑道編(1):(09.4)

 紅葉ほどではありませんが、やはり桜の季節になると浮き足立ってしまいます。去年の四月初旬、近場で花見をすることにしました。数年前、千鳥ケ淵に行ったことがありましたが、言語道断の混雑でした。「立ち止まらないでくださあああい」と絶叫するアナウンスにも閉口、もう二度とあんな目にはあいたくありません。とはいえ花の名所に人が押し寄せるのは世の常、桜が奇麗であまり人がいないところはないものでしょうかねえ。と「ルノアール」のココアのように甘いことを思っていたら、山ノ神曰く「ここきれい」。どりゃどりゃ、彼女が指差すのはJTBから「葱しょってこい」と送られてきたカレンダーの写真です。根川緑道? 聞いたことないなあ、でも小川におおいかぶさるように数多の桜が咲き誇っています。インターネットで調べたところ、立川のあたり、よし駄目でもともと、行ってみることにしました。

 地下鉄都営十二号線で東中野まで行き、中央線に乗り換え。車窓から外を見ると沿線の土手に見事に咲き誇る桜並木と菜の花がありました。へえーこんなところがあったのか、帰りに寄ってみましょう。中野駅前の桜並木も素晴らしいのですが、ここは以前に見たことがあるのでパス。阿佐ヶ谷で降りて、昼食用に「うさぎや」でどら焼きを買おうとしましたが、店の前は長蛇の列。まあそれだけの価値はあるのでいたしかたない、おとなしく列に並びました。そしてどら焼きを購入し、ついでに赤飯もゲット。ふたたび中央線に乗り、三鷹で特別快速に乗り換えて立川に到着です。途中、車窓から見えた国立駅前の桜並木も満開でした。多摩モノレールに乗り換えて二駅めの「柴崎体育館」で下車。ところが掲示されていた駅周辺地図に当該地がありません。駅員に訊ねようとしましたが、無人… 経費削減のためでしょうか、でも駅員がいないというのはけっこう不安ですね。右往左往していると、なんとなく人の流れが南の方へ向かっています。流れにのっていっしょに歩いていくと、すぐに人工的につくられた小川にたどり着きました。どうやらここのようです。川ぞいに細長い公園が整備され、花見客でにぎわっていましたが、それほどの混雑ではありません。川にそってぶらぶらと南の方へ歩いていくと小さな池があり、水面に映る新緑を眺めていると、宝石のように輝く物体がすっと眼前を横切っていきました。カワセミだ。どうやらこのあたりに住みついている常連らしく、三脚をセットした写真愛好家のみなさんが待ち構えていました。そして車道下のガードをくぐると、おおっ、ここだここだ。人工的なものとはいえ澄んだ清流、芝生におおわれた緑の土手、そして小川におおいかぶさるように咲き誇る桜並木。静かな水面に桜が映り、あたり一面は桃色の世界です。人手もそれほどではなく、ゆったりと桜を眺めることができました。家族づれや若者たちのグループが思い思いの場所に陣取り、バーベキューを愉しんでいます。予想どおり売店等はなかったので、昼食を持参して大正解。われわれも芝生に座り、メインディッシュの赤飯を手づかみでむさぼり(※箸はくれませんでした)、食後のスイーツ・どら焼きをたいらげ、水筒で持参したブルー・マウンテンを堪能。散り落ちる花びらをつかまえようとする子ども、水と戯れる犬、にこやかに語らう老夫婦、こうしたささやかだけれども確固とした幸せをなぜ世界中の人びとに保障できないのだろう? 未来を思い煩うことなく、家族や仲間とともに花を愛で微笑みあう幸せを。

 本日の四枚です。
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by sabasaba13 | 2010-02-16 06:11 | 東京 | Comments(0)

言葉の花綵22

 どんな髭剃りにも哲学はある。(サマセット・モーム)

 未成熟な人間の特徴は、理想のために高貴な死を選ぼうとする点にある。これに反して成熟した人間の特徴は、理想のために卑小な生を選ぼうとする点にある。(ウィルヘルム・シュテーケル)

 It's time we let the dead die in vain.
 戦死者は無駄死にさせなければならない。(サリンジャー)

 諸君、もちろん、これは冗談だ。まずい冗談だということも、自分で承知している。しかし、だからといって、何もかも冗談にしてもらっては困る。ひょっとしたら、ぼくは、ぎりぎりと歯がみしながら、冗談を言っているかも知れないのだ。(ドストエフスキー)

 一人前の男が、ただ口を糊して行くという一事のために貴重な一生を棒に振ってしまおうとしているのは、決して褒めたこととはいわれまい。(森銑三)

 音楽は何も変えることは出来ない。しかし、音楽は何度でも人の心を救うだろう。(unknown)

 理はこっちにあるが権力は向うにあるという場合に、理を曲げて一も二もなく屈従するか、または権力の目を掠めて我理を貫くかといえば、吾輩は無論後者を択ぶのである。(『吾輩は猫である』)

 だまされるということ自体がすでに一つの悪である。(伊丹万作)

 負けるなんて考えたことがない。(大場政夫)

 自分の帰属する集団に対する忠誠を、言葉の用法に対する忠誠に置き換えること。(橋爪大三郎)

 コノサカヅキヲ受ケテクレ
 ドウゾナミナミツガシテオクレ
 ハナニアラシノタトエモアルゾ
 「サヨナラ」ダケガ人生ダ (井伏鱒二)

 明日ありとおもふこころの仇桜 夜半にあらしのふかぬものかは (unknown)

 犠牲者になるな。加害者になるな。そして何よりも傍観者になるな。(unknown)

 人の退屈は思想の欠如による。(ショーペンハウエル)

 女なんてまだ早い。石垣に突っ込んで地震を待ってろ! (永六輔『商人』より)

 「あればたしかに便利かもしれないけれど、とくになくてもいいもの」(つまり現代の高度資本主義における最大の商品) (村上春樹)

 凡庸な努力は、凡庸な結果しか導かない。(王貞治)

 すべての愚か者が悪者とは限らない。しかしすべての悪者は愚か者である。(格言)
by sabasaba13 | 2010-02-12 06:23 | 言葉の花綵 | Comments(0)

変な銅像 koneta

力士像(滋賀県長浜「慶雲館」)
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餃子像(栃木県宇都宮)
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箱根駅伝栄光の碑(神奈川県芦ノ湖)
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ラグビータウン(埼玉県熊谷)
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こりすのトトちゃん(埼玉県大宮)
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フレディ・マーキュリー(スイス・モントルー)
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八代(熊本県)
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平知盛(山口県壇ノ浦古戦場址)
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ピカソ(スペイン・マラガ)
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船の科学館(東京都品川区)
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船の科学館(東京都品川区)
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東京都北千住
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河馬(鳥取県米子駅前)
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春日野清隆(岐阜県明智)
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(岐阜県中津川)
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忠犬ジョン(茨城県五浦)
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西郷四郎(尾道)
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おかめ(京都千本釈迦堂)
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わさび漬け(駿府公園)
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猿飛佐助(今治)
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桃太郎(岡山駅前)
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水戸黄門(水戸駅前)
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赤い靴はいてた女の子(静岡県日本平)
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役行者(石廊崎)
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金太郎と熊(芦ノ湖)
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弥次喜多(駿府公園)
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オオクニヌシノミコト(出雲大社)
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旧制高校生(岡山駅前)
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油祖(京都大山崎離宮八幡宮)
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by sabasaba13 | 2010-02-11 08:04 | 写真館 | Comments(0)

三文オペラ

c0051620_68627.jpg 満を持してこんにゃく座のオペラ「三文オペラ」を山ノ神と見てきました。上演場所は世田谷パブリックシアター、三軒茶屋駅から地下通路を抜けてすぐ近くにあるビルの三階です。こちらに来たのははじめてですが、なかなか良い小劇場ですね。舞台と一体化したようなこじんまりとした濃密な雰囲気、高い吹き抜け、これは楽しめそうです。さあはじまりはじまり。ベルトルト・ブレヒト作、クルト・ワイル作曲、演出は加藤直、音楽監督は萩京子、芸術監督は林光です。舞台いっぱいに設置された大階段に椅子が数脚並べられ、まずは楽士たちが登場(クラリネット・サクソフォン・トランペット・トロンボーン・パーカッション・ピアノ)。そして暗闇のマティアスが登場、彼が狂言回しをつとめることになります。あらすじについては書評「三文オペラ」をご参照ください。
 悪漢マックを中心に、一癖二癖三癖ある登場人物たちや、泥棒・乞食・娼婦・警官たちが、階段状の舞台で「俺たちの悪さなんざ、大企業や銀行の悪行に比べればかわいいもんさ」と歌い踊りながら、弾けるように所狭しと暴れまくります。その猥雑でいかがわしくてエネルギッシュな演技には圧倒されました。基本的には原作に忠実ですが、現代日本の格差社会をも射程に入れた挑発・哄笑も加えられて身につまされます。そしてこんにゃく座メンバーの歌唱力・演技力の素晴らしさは相変わらず。科白・歌詞の発音は聞き取りやすく、言葉のもつ意味を十全なかたちで聴衆に伝えるのだ、という熱い意思をひしひしと感じます。
 また岩波文庫に収められている原作を読んでおいたので、ブレヒトが取り入れた仕掛けについて多少ですが分かったのも収穫でした。たとえば、各場面の冒頭で、二人の役者が大きな布を広げるとそこにレーザーが照射され、その場面のあらすじを要約したタイトルが浮かび上がります。これに関してブレヒトはこう語っています。
 俳優はタイトルによってすでに予告された、つまり、すでに題材としての新しさではもう観客をひきつけるチャンスを奪われているこれからの舞台上の事件に、別の方法で気をひくように演じざるを得なくなる。(p.219)
 またミュージカルのように登場人物の感情が高まってそれが歌になるというのではなく、芝居を切断して歌が挿入され、独立した世界をつくっていること。そのために、歌が始まると、楽士たちの背後にある壁で電飾がチカチカと輝くようになっていました。
 あえて小言を言わせてもらえば、全員による合唱の場面で歌詞がつぶれて聞き取りづらかったこと。これは会場の音響効果か、あるいは小生の老化によるものかもしれませんが。もう一つは、これはぜひ善処してほしいのですが、プログラムに歌詞が掲載されていないこと。見終わった後でじっくりと芝居の意味を考えるためにも、ぜひ載せてほしいものです。これは挑発し考えさせる劇を追求したブレヒトの企図にも合致するのではないかな。
 フィナーレでは、役者全員が舞台からおりて客席の通路に並び、大合唱です。悪漢マックは絞首刑の直前に何の理由もなく女王陛下の恩赦で救われるが、笑っちゃいけねえ。「最後に悪は勝つ」というオペラは、われわれの社会で、もっともっと壮大なる規模で上演されているじゃねえか。
 いいですねえ、こんにゃく座。これからもご贔屓にさせていただきます。
by sabasaba13 | 2010-02-10 06:09 | 音楽 | Comments(0)

「三文オペラ」

 「三文オペラ」(ブレヒト 岩淵達治訳 岩波文庫)読了。こんにゃく座のオペラ「変身」を見て、いたく面白かったことはすでにご報告しました。さっそく次なる公演、ブレヒトの「三文オペラ」を予約し、いよいよ間近に迫ってきた次第です。お恥ずかしい話、彼の作品をいまだ読んだことがありません。クルト・ワイルの曲は、ソニー・ロリンズの名盤「サキソフォン・コロッサス」に収められている「モリタート」を聴いただけ。せっかく岩波文庫にラインアップされていることだし一読して公演にのぞむことにしました。
 時は二十世紀のはじめころでしょうか、場所はロンドン、主人公は悪党、メッキー・メッサー(匕首のメッキー)です。多くの手下を動かして、泥棒・殺人のやり放題。そして無類の女好きの彼は、大規模な乞食ビジネスを経営するピーチャムの娘ポリーと結婚しますが、同時に娼婦ジェニーと、警視総監の娘ルーシーとに三つ股をかけています。娘を奪われたことに怒ったピーチャムはメッサーを警察に密告、そして逮捕、脱獄、そしてまた密告、逮捕というすったもんだの挙句、絞首刑の判決が下されます。陳腐なお芝居でしたら、ここで馬にまたがった使者が駆けつけ、執行の寸前に女王陛下の恩赦を告げてめでたしめでたしとなるところですが… なんと、馬にまたがった使者が駆けつけ、執行の寸前に女王陛下の恩赦を告げてメッサーは助かります。そのうえ貴族に叙され、城館と年金一万ポンドを与えられるというおまけつき。最後に悪は勝つ!
 というよりも、彼がやった程度の悪さなんざ、大企業や銀行の悪行に比べれば、恩赦や叙勲に値するぜ、というブレヒトの強烈な皮肉でしょう。登場人物たちの科白をいくつか紹介します。
 人間はみな悪人ばかり。この世にゃ天国はねえ この世のしくみがそうさせねえ〔だろ?〕 [ピーチャム]  (p.89)

 悪いことはしちゃいかん 正直に暮らせよと 俺たちに説教する前に まず食う物をよこせ。自分はうまい物をくい 俺たちにゃ道徳かい? まず食う物をよこせ。分け前にありつけりゃ 道徳も持ってやるぜ。[メック] (p.149)

 ここにいる私は、没落しつつある階級の、没落しつつある代表者であります。われわれ市民階級のはしくれであるマニュファクチャーの職人は、時代遅れの鉄梃なんかを使って、中小企業のケチな金庫をこじあけるような仕事をしているうちに、大企業に呑み込まれてしまうのです。大企業の背後には銀行が控えています。銀行強盗に使う合鍵など、銀行の株券に比べれば何でありましょう。銀行強盗など、銀行設立に比べれば子ども騙しの仕事に過ぎません。[メック] (p.205)

 不正をあまり追求するな この世の冷たさに遭えば、不正もやがて凍りつくさ 考えろ、この世の冷たさを。[全員] (p.213)
 資本主義というシステムの不公正・不公平を糾弾・批判し、それと戦い続けたブレヒト。そしてナチスによってドイツを追われ、亡命を余儀なくされる己の後半生を予言するかのようなジェニーの科白もありました。「知りたがり屋のブレヒト! やたらに疑問を投げかけて 富の由来を尋ね過ぎ 国外追放になった! 知りたがりだったこの私 その私の末路を 知らぬ者はない (p.176)」 現代社会にやたらと疑問を投げかけ、その秘密を知ろうとし、それを劇+音楽という形で笑いとばし挑発した彼の生き様がすみずみまで満ち溢れた作品です。またこの作品に関するブレヒトの覚書も収められており、彼の創作活動の一端がうかがわれます。「流血は最小限にとどめ、それを合理化することがビジネスの原則である。(p.222)」という一文が強烈。
 さてこの作品をこんにゃく座がどう演ずるのか、楽しみです。
by sabasaba13 | 2010-02-09 06:09 | | Comments(0)

土佐・阿波編(35):徳島(09.3)

 さて空港行きバスの時間まで、もうすこしあるので近くにある瑞巌寺に寄りましょう。眉山の麓に凛として静かに佇む古刹です。1582(天正10)年、武田勝頼残党を追って恵林寺を包囲した織田信長による投降勧告を拒否して「心頭滅却すれば火も涼し」と火定に入った快川国師、その弟子が難を逃れ、縁を頼って阿波に渡り蜂須賀氏の帰依するところとなって開山となったそうです。見どころは、江戸初期の桃山式池泉鑑賞式庭園。門前で七分咲きの桜を愛で、庫裏で入園料を払い、木戸を押して中に入ると、眉山の自然をそのまま利用した庭園が出迎えてくれました。生い茂る老樹、春の訪れを賀するように芽吹く草木、静謐に水を湛える池に岩を伝って流れ落ちる湧水、阿波の青石でつくられた苔むす石橋、市街地の一角にこんな山紫水明の地があろうとは。「石走る垂水の上の早蕨の萌え出づる春になりにけるかも」という志貴皇子の歌が脳裡に浮かんできます。しばらく立ちすくみ、命の匂いに包まれていると、"人生即散歩"という悟りが…浮かんではきませんでした。まだまだ若輩者です。
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 さ、それでは駅前に戻りましょう。新町川にかかる新町橋のたもとに川端康成書による野上彰顕詩碑がありました。寡聞にしてこの方のことは知りません。後学のため、記しておきます。
前奏曲抄
虻は飛ぶ 金色に ああ アカシアの並木には 朝の神神の 化粧がこぼれてゐる
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 橋の歩道に奇妙に歪んだ絵が描かれてあったので、なんだこりゃと立ち止まると、鏡のような円柱形の欄干にその絵が映っています。鞘絵ですね、こりゃ。阿波おどりの男踊り・女踊りが描かれていました。なかなか洒落たことをしてくれます。
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 そして駅前に到着、コインロッカーから荷物をひっぱりだし、徳島空港行きのバスに乗り込みました。雄渾に流れる吉野川に別れを告げ、二十数分で空港に到着。ターミナルの前にはやはり阿波おどりのオブジェがありました。チェックインをして、最後のお勤めを果しましょう。実はイサム・ノグチの彫刻がこの空港に飾られているという情報を入手しました。さっそく付近と内部を徘徊するも見当たりません。JAL係員の女性に訊ねたところ、「いさむのぐち???」と埒が明きません。しかし彼女は親切でした。少々お待ち下さいと言って事務所にかけこみいろいろと訊いたり調べたりしたようで、インターネットからプリントアウトした資料を持ってきて「高松空港の間違いではありませんか」とおっしゃいます。「いや間違いありません」と断言しましたが、しょうがない、ないものはない、丁重にお礼を言って分かれました。なお今確認したところ、「タイム・アンド・スペース」という作品があるのは確かに高松空港でした。御免なさい! 電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、みんな私が悪いんです。売店では、しっかりちゃっかりお遍路グッズを販売中。
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 そして空港レストランで四国最後の食事として、たらいうどんと鳴門わかめと阿波ちくわをいただきました。
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 うん、また四国には来たいな。たぶん霊場八十八ヵ所をまわることはないでしょうが、自分なりの喜びと驚きと呆気と「至高の生」を求めるお遍路さんとしてね。さて次のプチ行雲流水はどこに行こうかな。

 本日の三枚です。参考のために、日本国内にあるイサム・ノグチ作品の一覧を掲載します。
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by sabasaba13 | 2010-02-08 06:11 | 四国 | Comments(0)

土佐・阿波編(34):徳島(09.3)

 しばし下界の春色を楽しみ、頂上駅となりにあるモラエス館に寄ってみました。恥ずかしながら、この方のことは知りませんでしたので、参考までに彼の生涯を紹介します。
Wenceslau de Moraes (1854‐1929) ポルトガルの海軍士官、日本文化研究家。海軍兵学校を卒業して海外植民地に勤務。1889年(明治22)初めて来日、以後しばしば日本を訪れた。98年マカオ港務副司令(海軍中佐)を最後に退役し、日本に移住。神戸、大阪領事となり、徳島生まれの芸者福本ヨネと結婚。ヨネの死後1912年徳島に移住、その姪(めい)斎藤コハルをめとったが、3年ほどでコハルも病没し、同地で孤独な晩年を送った。日本の庶民文化を熱愛し、これを研究紹介する多くの作品を故国の新聞・雑誌に書き送った。
 なるほど、ちょっとラフカディオ・ハーンの人生に似ているかな。モラエスの写真や手紙などを展示し、彼の書斎を復元した小さな資料館でした。彼がここ徳島に移住したのは、故郷リスボンに似ているからだそうですが、小さな山が市内にぽこぽこ点在しており近くを大河が流れている(吉野川・テージョ川)点はたしかにそうですね。ふたたび展望台に出て徳島を見下し、五年前に訪れたリスボンと、モラエスが感じたであろう「孤愁(サウダーデ)」に思いを馳せました。なおこの山は映画「眉山」の舞台となったそうです、見たことはないし見る気もありませんが、蛇足まで。
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 そしてロープウェーに乗って下山、せっかくなので駅のある阿波おどり会館のミュージアムに寄ってみました。まずは阿波おどりの歴史についてお勉強、風流おどりや踊り念仏、盆踊りといったいろいろな要素が融合してできたのですね。そしてマルチビジョンで実際の阿波おどりを堪能。♪踊る阿呆に見る阿呆♪といった貧弱なイメージしかなかったのですが、これがなかなか素晴らしい。特に女踊りの手足の所作がいいですねえ、粋で艶っぽく優美な動きには惚れ惚れしてしまいました。ぜひともこの眼で見てみたいな、高円寺もいいですができればこの地でね。
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 なお阿波おどり会館一階トイレの男女表示に、もちろん阿波おどりが描かれていたのは言うまでもないでしょう。分かりやすいように左下隅に男女マークが描かれていたのはいけませんねえ、せっかくの動的なデッサンが台無しです。よくよく見れば分かるじゃないですか。まあ女性用トイレの前で上空を見つめながら物思いに耽っている男性がいたら、後退りしますけどね。なお各地を旅していると、名物に関連した面白いデザインにけっこうでくわします。「トイレ男女表示」コレクターになりそうな、よ、か、ん。
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 なお阿波おどり会館前の休憩所は、阿波おどりの笠を模したものでした。
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 本日の二枚です。上は眉山から眺めた徳島、下はサン・ペドロ・デ・アルカンタラ展望台から眺めたリスボンです。
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by sabasaba13 | 2010-02-07 07:37 | 四国 | Comments(0)

土佐・阿波編(33):徳島(09.3)

 駅に戻り、徳島行きの鈍行列車に乗り込み、来る途中で見かけたシンプルな火の見櫓を車窓から撮影。おっ「学」とは珍しい駅名だ。
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 そしてガイドブックを参考に、徳島市内観光についての緻密なプランニング。ご当地B級グルメの徳島ラーメンを食って眉山にのぼって、後は臨機応変・行き当たりばったりということになりました。貞光から一時間二十分ほどで徳島に到着。トイレに行こうとすると、「20.6.1 高松駅 自動改札機登場!」というポスターがありました。嗚呼、JR四国よ、お前もか。人と人のふれあいをどんどん消滅させていき、いったいこの社会はどこに行き着こうとしているのだろふ。ふう… 気を取り直して駅付近のラーメン屋をさがしますか。おっありました、徳島ラーメン「麺王」。さっそく入店してラーメンを所望。豚骨醤油の茶色いスープに甘く煮付けた豚ばら肉のトッピング、うーん、私には少々甘くてくどいかな。ま、何事も経験です。
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 それでは眉山へと行きましょう。途中で歩道橋と横断歩道が共存している光景を発見、なぜこんな無駄なことをするのだろう。もしや予算を消化するために必要のない歩道橋をつくった徳島市に反撥した市民が、横断歩道保存運動を展開して勝利を勝ち取った…のかもしれません。新町川には、ひょうたん島クルーズという観光船がありましたが、本日の最終便が出発した直後でした、残念。なおひょうたん島とは、新町川と助任川に囲まれた徳島市中心部のことをさします。途中にあった銀行はコリント式列柱と半円アーチが印象的な堂々とした建築。
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 あるお店に並べて飾られていた星条旗と日の丸は、今の日米関係を物語っているようで思わず笑ってしまいました。十数分で眉山に登るロープウェー駅に到着、それでは登頂しましょう。
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 標高290メートル、徳島市のシンボルといわれる眉山ですが、ここからの眺望は素晴らしいですね。徳島市内と吉野川河口を一望、かすかに鳴門大橋が見え、空気が澄んでいると淡路島・紀伊半島も見えるそうです。
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 本日の二枚です。
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by sabasaba13 | 2010-02-06 07:12 | 四国 | Comments(0)