「狂気の核武装大国アメリカ」

 「狂気の核武装大国アメリカ」(ヘレン・カルディコット 岡野内正/ミグリアーチ慶子訳 集英社新書0450A)読了。アメリカ大統領選挙の帰趨がさかんに報道されていますが、おっとその前に、今のアメリカが何をしようとしているのか冷静に凝視すべきではないでしょうか。著者のカルディコット氏は核政策研究所代表にして、さまざまな反核運動に参画してきたオーストラリアの方です。本書は世界で最も大量の核兵器を保有し、軍需産業の権益を維持・拡大するため絶えず「敵」を捏造し、天文学的な予算をつぎ込み、大掛かりな核軍備態勢を構築している危険な大国アメリカの姿をあまるところなく暴いたもの。万人必読の書です。

 アメリカ国防総省と国務省は、年間3100億ドルにのぼる異常なアメリカの軍事支出を、北朝鮮、イラク、イラン、中国、ロシア、リビアからの脅威を想定して正当化してきましたが、その本当の理由を著者は鋭くもこう分析されています。「それはアメリカ軍を構成する空軍、陸軍、海軍、海兵隊の間の競争意識の結果だ。それぞれが自前の兵器システムをほしがっている」「それは、兵器購入の法律を作るたびに兵器製造業者から多額の寄付を受け取る、連邦議会とホワイトハウスの法律制定者たちの威信を高める」「通常兵器と核兵器を入れた巨大な兵器庫のおかげで、アメリカは罪に問われることなく、世界中でやりたいことができる。それはグローバルに展開するアメリカ企業のビロードの手袋の下にちらつく鉄拳なのだ」(p.22) 軍・政治・官僚・軍需企業・グローバル企業が一体化して、己たちの権益を拡大するために協力しているという構図がよく見えてきます。著者は豊富な事例と圧倒的な調査力をもって、核兵器、劣化ウラン弾、ミサイル防衛構想、対人工衛星作戦能力を含む宇宙兵器開発など、それ自体の危険性とともに、それらが国際関係に及ぼす危険性についても説得力のある論述を展開されています。これは微力な小生ではとても概括できないので、ぜひ本書をお読みください。アメリカの"狂気"が世界を破滅に追い込みつつあることが、肌の粟とともによくわかります。

 こうした動きをよりいっそう加速化させたのが言うまでもなくブッシュ政権。著者はこう述べられています。「私たちは、世界の破滅に向って突き進んでいる。戦争好きで間違った情報を与えられた大統領がホワイトハウスに居座っているからだ。そして、奇天烈で危険きわまりない兵器を造るために、国民が払った税金をできるだけ搾り取ろうと狙う企業派遣スタッフが大統領を操っている。(p.201)」 それではオバマ氏かマケイン氏か、大統領が変わることによってこうした政策の方向転換はなされるのでしょうか。推測ですが望み薄でしょうね。ロッキード・マーチン、TRW、レイセオン、ボーイングといった軍需企業は、2000年の選挙期間中に、運動資金として総額600万ドルを民主党・共和党双方の候補者に支払ったそうです。(p.70) 今回の大統領選挙でも、こうした軍需企業がこの二人のそれぞれどれくらいの運動資金を提供したのか報道してくれれば、これからの展開を予測する手がかりになるのですが。残念ながら日本のジャーナリズムにはそうした見識はないようです。

 そしてミサイル防衛構想への協力や宇宙基本法の成立など、こうしたアメリカの政策・戦略に手放しで寄り添う日本。さらには核保有への道程表も、財界・官僚諸氏によって秘密裡につくられているのかもしれません。そうなったら東アジア全体が核軍拡競争に駆り立てられて経済発展の足枷となり、一触即発の状況ともなるでしょう。ま、それがアメリカの真の狙いかもしれませんが。カルディコット氏のわれわれへのメッセージです。「日本は、核兵器として使用可能なプルトニウムの、世界有数の保有国だ。したがって日本は、アジア地域の、さらにアジアを超える世界各地への核拡散の推進国になりつつある。日本の人々は、六ヶ所村の再処理工場を即刻閉鎖させ、原子炉燃料としてプルトニウムを用いることをやめさせなくてはならない」(p.14)

 希望があるのかないのかわかりません。ただ魯迅が言ったように、みんなで歩けば道ができるでしょう。その道標として、大変重要な書であると確信します。お薦め。

 なお、リンカーンの恐るべき予言と、エドマンド・バークによる励みとなる言葉も知ることができました。あわせて紹介します。
 私には、近い将来の危機がみえる。この国のことを考えると、ぞっとし、身震いがする。…企業が王座につき、高位高官の人々の汚職の時代が続くだろう。この国のお金の力は、人々の偏見に働きかけて、自分の治世を長引かせようと努めるだろう。そしてついにあらゆる富は少数者の手に握られ、この共和国、人民が支配する国は、破壊される。(1864.11.21)  (p.52)

 悪をはびこらせる唯一の方法は、善人が何もしないでいることだ。 (p.236)

by sabasaba13 | 2008-11-05 06:04 | | Comments(0)
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