「素晴らしきアメリカ帝国」

 「素晴らしきアメリカ帝国」(ノーム・チョムスキー 岡崎玲子訳 集英社)読了。ノーム・チョムスキー、アメリカの言語学者で、人間のなかに言語を生み出すメカニズムを仮定し、これをすべての人間が生まれながらにもつ遺伝的なものだとする生成文法を理論化した方です。と同時に、ベトナム戦争以降、政治活動も精力的に行い、アメリカ政府の政策を舌鋒鋭く批判し続けている思想家・活動家でもあります。本書は、デイヴィッド・バーサミアンによる、チョムスキーへのインタビューを収録したものです。「ならず者国家」「破綻国家」アメリカの外交・内政を鋭く批判するその舌鋒の鋭さは健在。インタビュー形式であるため、表現も平易でわかりやすく、氏の語り口を体感できるのも魅力です。基本的な内容は、以前に紹介しました「お節介なアメリカ」とほぼ重なりますので、そちらを参照していただけると幸甚です。それに加えて、核やレーザーを含む強力な兵器を世界のどこへでもいきなり発射できるプラットフォームを宇宙に配備するという軍事戦略「宇宙の所有」や、社会保障制度の破壊などにも言及されています。後者については、今、日本で推し進められている政策とオーバーラップしてしまいます。引用しましょう。
 …重大なのは、社会的支援制度を根本から破壊しようとする長期的な動きです。社会保障制度をはじめとした、人々が相互に配慮しあうという考え方に根ざした計画を取り除こうとしているのです。互いに思いやりをもち連帯しなければいけない、街の反対側で暮らす障害のある未亡人がちゃんと食事ができているかどうか心配だ、という考えを、私たちは頭から消し去らなければならないというのです。…それを実現させるためには、人々を恐怖に突き落とすしかありません。そうでなければ私たちは受け入れないのですから。自分たちの安全が脅威にさらされていると怯えていれば、人々は強い指導者の方へ引き寄せられるでしょう。
 そして最終的にアメリカ政府がめざしているのは、「自分のことにしか関心がなく、ほかの者とかかわろうとしない結果、簡単に支配され管理される異常な人間に変身させ」ること。簡単に支配され管理される人間を「異常」とするあたり、行動する知識人・チョムスキー氏の面目躍如ですね。人間は、たやすく管理されたり支配されたりしてはいけないんだ。
 そしてこうしたアメリカを含む異常な世界を変革するための心構えにも随所でふれられています。以下、引用します。
 何かを成し遂げたいのであれば、ふだんからの努力と専心が必要です。物事を変えるのは、教育プログラム、組織化、積極的な活動です。魔法の鍵が欲しい? そうすれば明日からはまたテレビを見ながら暮らせるから? そんなものは存在しないのです。

 世界に変化をもたらしたいのなら、ある問題に関心のある数人を集め、少し大きな組織をつくり、次の段階では挫折を味わってからやっと前進するという退屈な作業を、来る日も来る日も、徹底してつづけることが必要なのです。世界の変革とはこうして生じるものです。奴隷制度を廃止し、女性の権利を確立し、選挙権を獲得して、労働者の保護を定める…進歩と呼べるものはすべて、そのような努力の結果です。一回だけデモに顔を出してみたものの、何も起きないからといって止めてしまったり、四年に一度投票所に足を進んでそのまま帰宅したり、といったことではなんにもなりません。少しはましな、あるいは比較的ひどくない候補者を当選させることは悪くないのですが、それは終わりではなく始まりにすぎない。候補者たちを駆り立てることができる、生き生きと前進する民主的文化を発展させなければ、あなたが自分の一票で支持した公約を彼らが果すことはありません。
 広い意味における「教育」によって、真実を(子どもを含めた)多くの人々に伝え、そして考える力を身につけてもらう。志を同じくする人たちと連帯し、積極的な活動を続ける。さて私には何ができるのか。たとえ結果がともなわなくても、何かを始めなければ、と焦慮を感じてしまいます。まずは、世界を変えるための魔法の鍵にすら関心がない人たちと語り合うことからはじめましょうか。

 追記。「協定によって、アメリカが望むだけの兵力を望むだけ長期間駐留させる権利をイラク政府に認めさせるのです。主権はイラク政府にあるのにですよ」という一文がありましたが、うむむ、日米安全保障条約を想起してしまいます。敗戦後の日本占領政策が、イラク占領のモデルになっている可能性大ですね。
by sabasaba13 | 2009-01-02 07:09 | | Comments(0)
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