阿佐ヶ谷・高円寺・西荻窪編(8):西荻窪(08.5)

 アントニン・レーモンドの名前が出たついでに、一つエピソードを紹介しましょう。(参考文献:「建築探偵 神出鬼没」) 日本で活躍したレーモンドは1938(昭和13)年にアメリカに帰国し、軍が立案した計画に参加することになります。それは"空襲"という日本の木造都市だけに有効な世界初の戦略で、アメリカ軍もその実効性には疑問がありました。そこで日本の都市や建築事情を知悉しているレーモンドを招き、彼の指導でユタ州に木造の町が作られ、繰り返し燃やされたそうです。戦後、彼は再び来日し活動を開始しますが、当然の如く日本の建築家から強い批判をあびることになります。しかし彼はこの計画に参加した理由については、黙して語りませんでした。藤森氏はその理由について、こう推測されています。レーモンドはチェコ出身で、彼が建築の勉強のため渡米した後、ナチス・ドイツによる侵攻が行われました。その際に、彼の五人の弟と妹は、ある者は国外脱出をはかって処刑され、ある者は強制収容所に送られて消息を絶ってしまいます。彼は、ナチス・ドイツと手を組む日本を叩くことによってしか、自分たちは救われないという思いがあったのではないか。そして以下は私の推測ですが、戦後彼が高崎の音楽センター建設に献身的に協力したのは、ある種の罪滅ぼしの意があったのではないか。
 大学の前には「音楽と絵と… 珈琲 グリンカ」という喫茶店がありました。「ルスランとリュドミラ」を作曲したロシア五人組の一人、あのグリンカのことでしょうか。地蔵坂上に向かう女子大通りを右に曲がると、つきあたりにあるのが天徳湯、豪壮な切妻造+二連の千鳥破風が印象的です。外国人向けに、英語版銭湯の入り方が掲示してありました。
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 この路を駅方向へと歩くと、一帯は邸宅が建ち並ぶ閑静な住宅街です。年輪を感じさせる庭木、瑞々しい生垣、ところどころにある戦前の物件らしき和風・洋風の家屋、見飽きることがありません。きれいな生垣と庭木に魅かれて、ふらふらと脇の路地に何度入り込んだことか。
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 こちらで古い表札を二つ発見。「杉並區松庵北町八十七番地」と「東京府武蔵野町吉祥寺一.一.六」ですが、後者はかなり珍しいものではないかと自負しています。
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 ある路地には、逆U字型鉄柵ではなく、ステンレス製の円柱が一本立っているだけの車止めがありました。そうか、あの化物を路地から締め出すには、こんなシンプルな存在だけでいいんだ。「21世紀の開幕栄光の前半に向って」というわけのわからない不動産屋の広告もありました。
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 ガードをくぐり駅の南側に出て、最後の目的地である喫茶店「ダンテ」に寄りましょう。シックで落ち着いた雰囲気の店内で、美味しいブルー・マウンテンをいただきました。画一的・無機的なチェーン店のコーヒー・ショップが氾濫する中で、こうした個性的な喫茶店を存続させている西荻窪の方々に敬意を表したいと思います。
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 というわけで東京小さな旅はこれにて終了。上品で落ち着いた阿佐ヶ谷、雑駁で元気あふれる高円寺、そして閑静ながらもゆるゆるとした個性のある西荻窪、それぞれ味わい深い散策を満喫することができました。一つ心残りは、荻窪にある近衛文麿の邸宅「荻外荘」(荻窪2-43-20)に行くのを失念してしまったことです。また機会を見つけて寄ってみたいと思います。
 後日談。「うさぎや」のどら焼きを山ノ神に献上したところ、上野の本家とは微妙に味は違うが甲乙つけがたい美味しさであるぞよ、と評されました。私も同感。それではここでクエスチョン、下の何の能もない二枚のどら焼きの写真、どちらが上野の「うさぎや」でどちらが阿佐ヶ谷の「うさぎや」のものでしょうか? 正解は… どっちだっけ…
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 本日の二枚です。
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by sabasaba13 | 2009-01-24 07:25 | 東京 | Comments(0)
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