アイルランド編(48):イニシュモア島(08.8)

 しばらくペダルをこいで坂道を上りきると、眺望が開けてきます。海へと続く緩やかな斜面は見渡す限り一面の牧草地、そして手で積んだ武骨な石垣が網目模様にように縦横にめぐらしてあります。なおその総延長は1500km以上に及ぶそうです。羊や牛はそれほど見かけませんでしたので、島の産業は観光が中心になっているのかもしれません。離れて点在する家々も昔ながらの石造り・藁葺き屋根はほとんど見当たらず、モダンな建物がほとんどです。映画で見たような昔の生活を偲ばせるものはないのですが、この身が引き締まるような光景を見られただけで満足です。悠久の時をかけ血の滲むような労苦で荒野の上につくりだされた牧草地や石垣、そして風に吹き飛ばされまいと地に根づきしがみつくような家々、そしてその向うには島民に恵みをもたらし時には試練を与えてきた青い海。自立を人生最高の宝とし、生きるために闘ってきた島ひとたちに、あらためて敬意を表したいと思います。そして時々道ぞいに、小さな十字架が乗っている石造りの碑を見かけるのですが、おそらく海で死んだ人たちを追悼するためのものでしょう。映画のワンシーンにあった牙を剥き荒れ狂う冬の海が脳裡をよぎります。
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 それではイニシュモア島のハイライト、先史時代の遺跡ドン・エンガスへと向いましょう。なお西の方から雲がどんどん流れてきて空を埋めつくしはじめましたが、これは想定内、というか覚悟はできています。ま、雨が降らなきゃ御の字です。広漠とした荒野を貫く一本道を走っていると、はるか前方にそれらしき断崖が見えてきました。しばらくすると島びとの墓地があり、ハイクロスが無言で林立しています。
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 ゆるやかな坂道をのぼって到着、駐輪場に自転車を置き、ビジター・センターで入場料を払い、ここから荒野の中にある遊歩道を歩いていくことになります。なおセンター内には全貌をとらえた空中写真などこの遺跡に関する展示がありました。すこし歩くと島の子どもたちでしょうか、三人の少年が道の脇に座りアコーディオンと笛でアイリッシュ音楽を奏でていました。前に蓋を開けた楽器ケースが置いてあるので、こうしてお金を稼いでいるのですね。しばし聞いていたのですがなかなかの腕前、哀愁をおびたメロディが旅情をそそります。2ユーロをあげて、先へと進みました。
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 ごつごつした岩が露出する坂道を十数分歩くと、遺跡に到着です。
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 石積みの壁が海に向って四重の半円形に築かれており、直線部分の下は切り立つような断崖絶壁です。その正体については、砦か、はたまたドルイド教の神殿か、解明はされていないとのこと。遺跡の迫力もさることながら、高さ約100mの断崖のど迫力には言葉を失いました。ほぼ垂直に切り立つ断崖がどどーんと真っ逆さまに海へと突き刺さっているようです。これまで見た中で最も凄かったのは能登半島のヤセの断崖ですが、セットカウント3-0(6-2 6-1 6-4)でこちらの勝ち。おまけに手すりも立ち入り禁止の立て札もありません。恐る恐る縁に近づき、他のみなさんがしているように、腹ばいになって下を覗き込みました。はるか下の方で逆巻きながら島に襲いかかる波、そして顔を吹き飛ばすような強い潮風、あまりの怖さにすぐ腰が引けて脱出。
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 たぶん日本だったら完全に立入禁止にするか、象が体当たりをしても壊れないような頑丈な柵をもうけるのだろうなあ。「危険かどうかは自分で判断しろ、危険だと思ったら近づくな、近づいて起こった結果は自分で責任をとれ」というやり方のほうが好きですね。

 本日の六枚です。
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by sabasaba13 | 2009-05-17 08:46 | 海外 | Comments(0)
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