「ストラディヴァリウス」

 「ストラディヴァリウス」(横山進一 アスキー新書082)読了。クラシック音楽の一ファンとして、ストラディヴァリウスの名を聞くと心躍ります。しかしいろいろな伝説やら風聞やらに包まれ、製作者や楽器についての情報はあまり伝えられていないような気がします。機会があったら詳細を知りたいなと思っていたら、たまたま本屋で見かけたのが本書、新書なので気軽に読めそうだしさっそく購入しました。著者の横山氏はこうした銘器に惚れこんだ写真家で、なんとみずからもヴァイオリン製作を手がけるようになったそうです。まずこれまで頭の中で雑駁にちらかっていたヴァイオリンに関する知識を整理整頓していただいたことを、感謝します。例えばストラディヴァリは製作者の名前で、彼がつくった楽器をストラディヴァリウスと言うのですね。はじめて現在のようなヴァイオリンを制作したのがクレモナの楽器職人であるアンドレア・アマティ、彼の孫が名人ニコロ・アマティ、彼が育てた弟子がアントニオ・ストラディヴァリとアンドレア・グァルネリ、彼の孫(異説あり)が名人グァルネリ・デル・ジェス。なるほどなるほど。そしてこの楽器にまつわる興味深い逸話も盛りだくさん。はじめて知ったのですが、こうした古い弦楽器のネックはほとんど替えられており、オリジナルのものは少ないのですね。以下、引用します。
 今から200年ほど前から、音楽はしだいに教会や宮廷のサロン(室内)から劇場(コンサートホール)へと舞台を移し、1000人もの聴衆を対象とするようになった。その結果、より大きく強い音が求められ、ヴァイオリンも大きく改造されていった。そのためには弦長を伸ばす必要があり、ほとんどの古いヴァイオリンのネックは新しいものに替えられた。(p.62)
 それでは何故、演奏がコンサートホールへと舞台を移されることになったのか。そんなことを考えると、歴史の大きなうねりとの関連にも思いが及びます。また「ストラディヴァリウスの音の美しさはそのニスに秘密があり、もはや復元は不可能」という俗説もあります。しかし著者は、彼が使ったニスの処方は現在の科学をもってしても判明しないのは事実だが、成分が長い年月で風化してしまったためであり、それを音の秘密というのは言い過ぎだと述べられています。またストラディヴァリの生涯についてもふれられており、死ぬまで切磋琢磨ながら己の技を磨き続け、最晩年の93歳までそれほどの衰えを見せずに制作をしていたそうです。一言、頭が下がるのみです。
 この楽器自体の美しさと、音色の素晴らしさを語る本ゆえ、とても言葉では言い尽くせるものではないことは重々承知、それでもその一端を伝えようとする著者の思いは確実に受け取りました。氏が撮影したクレモナの街や、いろいろな楽器の写真がカラーで載せられているのも嬉しい限りです。
 巻末には、ストラディヴァリウスを使用したヴァイオリニストと、その楽器名が紹介されています。それではジノ・フランチェスカッティ演奏によるパガニーニのヴァイオリン協奏曲第一番を聴いて、「ハート」の音色を堪能することにしますか。
by sabasaba13 | 2009-06-04 06:07 | | Comments(0)
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