さて山門の前を右に曲がり、塀づたいに少し歩くと、五百羅漢で有名な羅漢寺です。途中にあった目黒保健所作成の掲示が「ネコにえさを与えるあなたへの手紙」。えさ・糞尿の後始末、去勢不妊手術の励行を呼びかけたものですが、最終的には町中の野良猫を撲滅しようということなのでしょうか。たしかに我が家でも糞尿の臭いで閉口することも時々ありますが、それでも猫のいない寂寞さを思えば堪えられるというもの。あまり目くじらをたてることはないと思いますが。それにしても「不幸なネコを増やさない」とはあまりにも増上慢な物言いですね。われわれに猫の幸不幸を決める権利はあるのでしょうか。その近くには「目黒のSUNまつり」というポスター、なるほど"目黒のさんま"か。
そして数分で羅漢寺に到着、お目当ては五百羅漢像です。「目黒のらかんさん」として親しまれている三百五体の羅漢像は、元禄時代に松雲元慶禅師が、江戸の町を托鉢して集めた浄財をもとに、十数年の歳月をかけて作りあげたものだそうです。拝観料を払って、保存のためにつくられたモダンな展示館に入ると目白押しにつめこまれた羅漢さんがお出迎え。しかし表情や仕種に個性がとぼしく、
川越喜多院の五百羅漢像に軍配をあげましょう。なお写真撮影は禁止でした。本堂は築地本願寺に似ている古代インド風、伊東忠太の衣鉢を継ごうとしているのか、たんなるパクリなのか、よくわかりません。
本堂内にも羅漢さんがおられましたが、法事の最中なのでよく見られませんでした。入口にある「お線香着火器」の説明がなかなかシュールなので紹介します。「着火器に火がつかない場合は… ①着火レバーを下げる。②着火レバーを下げたまま、ライターまたはチャッカマンで火をつける。③火がついたら、着火レバーを下げたまま線香をのせてください。それでもつかなかったら…ガス切れです。寺務所までご連絡ください」 あのお(おずおずと挙手)質問があるのですが、①以降をすべて省きライターまたはチャッカマンで直接線香に火をつけたほうが早いのではないでしょうか。
そして本堂入口の上部には、軍隊による民衆の殺戮を描いた絵が掲げられています。思わず眼を奪われ、解説を一気に読んでしまいました。1945年8月14日に、旧満州の大興安嶺・ホロンバイル草原の葛根廟でくりひろげられた、ソ連軍戦車隊による在留邦人虐殺を描いたものだそうです。(葛根廟事件) 犠牲者は千数百人、寡聞にしてこの悲劇については知りませんでした。その方々が当寺に葬られているのでしょうか。解説文中の「東洋のゲルニカ」という表現には違和感を覚え(類似点は何か)、「黙して言葉もない」という結語には異議を唱えたい。二度とこのような事態を起こさせないためにも、言葉を失ってはいけません。当事者のソ連軍、および彼らを前線に放置した関東軍・政府・関係者に対する瞋恚の思いを禁じ得ません。
本日の一枚です。