紀伊編(15):湯浅(08.9)

 そして20分ほどで湯浅に到着。わが敬愛する散歩の奇人・グレゴリ青山氏が「グ印関西めぐり 濃口」(メディア・ファクトリー)の中で、思わぬ発見をした時のオーラを発し喘ぎながら絶賛されていた町です。さてその真偽はいかに、自分の目で確かめることにしましょう。湯浅、中世においては豪族湯浅氏の本拠地、そして熊野街道の宿場および港町として栄えた町です。熊野古道が市街地を通る唯一のところですね。また明恵上人の出身地でもあります。特産品は湯浅醤油と金山寺味噌、これは是非賞味してみたいものです。
 特急停車駅とはとても思えない質素な駅舎を出て、あたりをきょろきょろしましたが、観光案内所も貸し自転車もないようです。駅の窓口で観光地図を頂戴し、まずは腹ごしらえ。昭和三十年代の空気を真空パックにしたような通りをすこし行くと「かどや」という料理屋がありました。
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 さっそく中に入って刺身定食としらす丼を所望。つけあわせで金山寺味噌と胡瓜が食べられたのは幸いでした。瓜や茄子の小片がまぜられたご飯の友、いわゆる嘗味噌ですね。これはなかなかいける、山ノ神に御土産として奉納することにしましょう。食事をしながら、地図で町の概要を把握、これから歩くコースを大雑把に決めました。
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 さあ徘徊の開始です。まずは西へ向かい細い路地を抜けて海に出ると、平安時代の石垣積みの中波止と紀文丸像がありました。前者は自然石が雑然と積み上げられていましたが、平安期の港湾遺跡というのは珍しいですね。後者は、この地出身といわれる紀伊国屋文左衛門の持ち船・紀文丸をイメージした木製のオブジェ。
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 そして町の中心部を南北に貫く熊野古道を北へと歩いていきましょう。格子窓のある古い町家が散見される落ち着いた雰囲気です。ん? なんじゃこりゃ? 重厚な煉瓦塀とアーチ、その奥には二階建ての大きな木造建築。工場? 軍事施設? 違うなあ… 近づいてみると何と銭湯でした。うむむむ恐るべし湯浅。この後も、好奇心をそそられる不思議な物件・レトロな物件が目白押し。「自転車飛び出し注意」の「飛」という字がちょっとおかしいぞ。古い円筒形ポストはいまだ現役で頑張っているようです。ファサードに漆喰の装飾をほどこした不思議な洋館は、グレゴリ青山氏の本によるとかつて医院だったようです。
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 「折箱紙凾石鹸日用品 野下商店」「石けん日用品 橘五郎商店」という古い手書きの看板。1838(天保9)年に建立された「すぐ熊野道」という石製の大きな道標も残されています。古い町家の半分を強引に車庫にしてしまったので、可哀想に虫籠窓が半分消失しています。
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 そして「世界の味 ノーベル賞飴」「世界最高 グアノ有機化成 グワネロ」「コウノシマ化成」「ペルーグアノ販売店」「ニッコーの天ぷら油サラダ油」「みや古染」「トマス電球」といった古いホーロー看板の数々。
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 木製花壇には立小便禁止を示す手書きの鳥居が貼ってありました。雑貨屋の店頭に山と詰まれた特売品のプラスチック製樽は、各家庭で漬物をつくるためのものかな。「道交法第45条に依り駐車禁止」という法的な正当性を主張する看板。葦簀(よしず)もしばしば見かけましたが、何の違和感もなく町にとけこんでいました。時々通りの一画にだけ手製のアーケードが設置されているのも不思議な光景です。フェイス・ハンティング物件として、古代ローマの剣闘士のような塀を発見。
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 気になる路地に入っては戻り右往左往・右顧左眄しながらの楽しい散策でした。世の流行り廃りから超然とし、古い物でも害がなければそのままにしておこうという自然体を感じさせてくれる町です。

 本日の六枚です。
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by sabasaba13 | 2009-07-18 07:01 | 近畿 | Comments(0)
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