肥前・筑前編(4):長崎・出島(08.10)

 この橋のとなりが出島、以前に来た時よりもずいぶんと建物が復元されており、(もし正確に復元されているのであれば)往時の雰囲気を多少なりとも味わうことができます。
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 なるほどね、こんなに狭いところに閉じ込められて四六時中監視されていたらオランダ人が「国営の牢獄」と歎いたのもむべなるかな。それでも撤退せずに日本との交易を続けたのは、それに見合うだけの莫大な利潤があったのでしょうね。「興亡の世界史15 東インド会社とアジアの海」(羽田正 講談社)に下記のような記述がありました。
 1637年における会社全体の利益総額のうちで、平戸商館での貿易による利益が占める割合は何と七割以上に達していた。これだけの利益が上がっている以上、オランダ人が少々の屈辱であればそれに耐えて貿易関係を維持しようとしたのは当然だろう。(p.141)
 その利益を生み出したものは中継貿易です。一つは日本の銀と中国の絹の交易、もう一つはアジア域内での交易、後者についてはあまり知られていないようなので、紹介しましょう。長崎で銅を入手したオランダ東インド会社は、その銅を東南インドのコロマンデル海岸へ持って行って、綿織物と交換します。そして、今度はその綿織物を持って東南アジア各地に赴き、胡椒・香辛料や染料、それに鹿皮や鮫皮などを手に入れます。その一部はヨーロッパへ送られますが、鹿皮や鮫皮は長崎へと送られ再び銅と交換されました。交換のたびに利益が上がる、おいしい交易ですね。オランダ東インド会社は利益のためには軍事力の行使を厭わなかったのですが、ここ出島のオランダ商館には一人の兵士も駐留していなかったそうです。「パックス・トクガワーナ」という原則に平身低頭して従ってでも、こうした大きな利益を確保したかったのでしょう。そしてこうしたアジア世界との接触・交流がやがて近代ヨーロッパを生み出していったのですね。再び前掲書から引用します。
 近代ヨーロッパは、決して地理的な意味でのヨーロッパとそこに住む人々が独力で生み出したものではない。東インド会社が運んだアジアの産物とアメリカの銀がヨーロッパに豊かさをもたらした。すぐれたアジアの製品を目標として技術革新が進んだ。進出したアジア、アフリカ、アメリカ、オセアニアで、人間とその社会、人間を取り巻く環境に関してはかりしれないほど多くの新しい知識を獲得した北西ヨーロッパの人々は、その知識を活用して自らの政治機構や社会制度を見直し、それらを刷新した。キリスト教の枠を超えた新しい世界観と自己認識を見出し、科学技術や学術を飛躍的に発展させた。このように、ヨーロッパ以外の地域が存在しなければ近代ヨーロッパは決して生まれなかった。近代ヨーロッパは、一体化したそれ以前の世界の人々の様々な活動が総体として生み出した世界の子供なのである。(p.361)
 ここ出島を通して、近世日本も近代ヨーロッパという「世界の子供(鬼子?)」を生み出すのに一役買ったことも銘肝しておきましょう。おまけ。日本語の「おてんば」は、「手におえない」を意味するオランダ語ontembaarのなまったものだそうです。

 追記。先日、「長い20世紀 資本、権力、そして現代の系譜」(ジョヴァンニ・アリギ 作品社)という素晴らしい本を読了しましたが、その中でオランダ東インド会社の性格を的確にまとめられていましたので紹介します。なるほどねえ、費用がかかる場合には軍事介入を控え、あらゆる活動を組織的に行いながら、利潤の極大化を追求する。冷徹な資本主義の論理をみごとに体現した組織だったのですね。近世日本を軍事力で植民地化するという選択肢などありえなかったわけだ。
 このようにして、オランダ東インド会社は、ポルトガル人がすでにインド洋にもち込んでいたもの(卓越した海軍力、および東方製品を求めるヨーロッパ市場との直接的組織的つながり)を、イベリアの事業に欠けていたものと組み合わせた。イベリアに欠けていたのは、次のようなことであった。第一に、十字軍にこだわるよりもむしろ利潤と「節約」を追い求めること。第二に、直接であれ間接であれ利潤の「極大化」を正当化できないような軍事介入・領土獲得を組織的に回避すること。第三に、インド洋貿易の最も重要な供給品に対する支配を獲得、維持するのに最も適当と思われるあらゆる活動(外交、軍事、行政、その他)に同様に組織的に関与することであった。(p.250)
 本日の一枚です。
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by sabasaba13 | 2009-08-15 08:07 | 九州 | Comments(0)
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