時は昨年の師走の中旬、うららかな冬晴れのある一日です。「赤線跡を歩く」(木村聡 ちくま文庫)を杖に、鳩の街と玉の井を散策してきました。まずめざすは鳩の街、東武伊勢崎線曳舟駅で下車し、水戸街道の方へ歩いていきましょう。駅周辺はとりたてて何の変哲もない町並みですが、古い和風旅館や牛乳屋が目につきました。後者については、大規模小売店舗やコンビニエンス・ストアの勢力が、地元商店の営業を蚕食していないということの証左かもしれません。
水戸街道に出て、どこかの路地を西方向に入ったところが鳩の街だということしか確認していません。しばらくうろうろうろうろしているうちに、「鳩の街 SINCE 1948」という幟のあるアーチを見つけました。住所表示でいえば、墨田区東向島1-27あたりです。 まずは前掲書を参考にこの街の由来を紹介しておきましょう。戦争で罹災した玉の井の業者が、玉の井の向島花街の中間にあたる焼けなかった住宅地に目を向け、住人や借家の店子を買収して移転したのが始まりとされています。昭和20年五月に数件が営業を開始し、終戦の頃にはすでに数十軒からなる娼街ができあがっていたそうです。戦後は進駐軍が多く出入りした時期を経ていわゆる赤線に移行、鳩の街と名付けられ、カフェー風の町並みが整うようになりました。なお何故「鳩の街」と名付けられたかは触れられていませんでした。ご教示を乞う。また、私は未読なのですが、吉行淳之介の作品「原色の街」の舞台となってことでも有名だそうです。 さあそれでは散策開始。幅数メートルの細い路地の両側に、身を寄せ合うようにして商店・民家が建ち並んでいます。日曜日の朝ということもあってか、まだ町は半分まどろんでいるよう、行き交う人もそう多くありません。往時の名残はないかと鵜の目鷹の目できょろきょろしていると、洒落たデザインの木戸や手押しポンプを見つけました。 路地に対して斜めに入口がある古い写真館も発見。またファサードを銅板で覆った看板建築も何軒かありましたが、戦災を免れた物件かもしれません。 松の湯を通り過ぎたあたりに、二階のモルタル塗り部分がモダンなデザインになっているお宅を見かけましたが、かつてカフェーであったという確証はもてません。なおこのあたりに木の実ナナが生まれ育った家のあることが、後日わかりました。 そして入口のアーチから歩いて十数分ほどで墨堤通りにぶつかり、鳩の街は終わります。Uターンをして、今度は北東の界隈を、商店街と並行しながら徘徊してみましょう。すると入口わきにおおきな円柱が屹立する家を発見。警察から「一目でわかるよう、赤線の建物は壁や柱にタイルを張れ」というお達しがあったそうなので、かつてはタイル張りの柱だったのかもしれません。舌なめずりしているような郵便受けをフェイス・ハンティングし、さらに南東へと歩を進めましょう。 すると一階のモルタル部分の角がゆるやかなカーブで、二階に竹の桟がついた丸窓のあるお宅を発見。 どうやらこのあたりにカフェー建築の名残がありそうです。ビンゴ! 寺島保育園の前にある、商店街と並行する路地のあたりが圧巻でした。タイル張りの柱や壁のある建物が、数軒建ち並んでいます。 スパニッシュ瓦で葺いた庇、洒落たデザインの戸、路地から斜めに配された入口など、当時の面影を髣髴とさせる意匠も見られました。お住まいの方・ご近所の方の迷惑にならないよう気をつけながら、時間が止まってしまったような街角を撮影。 本日の一枚です。
by sabasaba13
| 2009-12-03 06:24
| 東京
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Comments(4)
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Kinsan
at 2009-12-04 19:38
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ブログ拝見させていただいております。『赤線跡歩く』P64写真上のタイル張りのお宅が、今年の夏頃に火災にあったと聞きましたが、何かご存知ですか。
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sabasaba13 at 2009-12-07 21:46
こんばんは、Kinsanさん。申し訳ありませんが、当該書が本棚のどこかに紛れ込んで消息不明のため、そのお宅の相貌がわかりません。鋭意捜索中ですので、判明し次第お知らせします。それでは。
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ひりさん
at 2009-12-21 16:21
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8月最後土曜日でした。出火原因はタイル張りのお宅の漏電らしいです。
12月19日現在、家の周りには建築用のシートが張り巡らされており、近々に取り壊されそうです。
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sabasaba13 at 2009-12-23 18:07
こんばんは、ひりさん。情報をありがとうございました。そうですか、残念です。そのお宅の方がご無事であればせめてもの救いです。
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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