「夕凪の街 桜の国」

 「夕凪の街 桜の国」(こうの史代 双葉社)読了。偶然手にしたマンガなのですが、一気呵成に読んでしまいました。シチュエーションは「父と暮らせば」とほぼ同じで、1955(昭和30)年頃の広島を舞台にしています。繊細でほのぼのとしたタッチに惑わされてはいけない、原爆投下についての深淵を覗かせてくれます。主人公の若い娘も、死者への想いから幸福になることを拒否するのですが、その理由は劇・映画とは少し違います。「わたしは腐っていないおばさんを冷静に選んで下駄を盗んで履く人間になっていた」と回想しているように、彼女は死者を踏みにじりながら生き延びざるを得なかったのですね。貧窮の描写も真に迫っています。映画にも雨漏りのシーンがありましたが、ぴかぴか光るなめくじの足跡にはふれていませんでした。彼女は、友人がおにぎりを包むのに使っている竹の皮をもらい、草履をつくっています。そしてこの一文です。
 ぜんたいこの街の人は不自然だ 誰もあの事を言わない いまだにわけがわからないのだ わかっているのは「死ねばいい」と誰かに思われたということ 思われたのに生き延びているということ そしていちばん怖いのは あれ以来 本当にそう思われても仕方のない人間になってしまったことに 自分で時々気づいてしまうことだ
 何物かによって非人間的な境遇に落とされた人間が、非人間的な行為によってしか生き延びることができなくなる。その責任は誰にあるのか、そうした行為は死者に赦してもらえるのか。ここまで鋭く深く原爆投下を描いた作品は稀有でしょう。そして恋人に看取られながら、放射能障害によって彼女は死んでいきます。次のような言葉を残して… 
 嬉しい? 原爆を落とした人はわたしを見て「やった! またひとり殺せた」とちゃんと思うてくれとる?
 
by sabasaba13 | 2005-04-04 06:22 | | Comments(0)
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