池之端・根津・谷中編(1):旧岩崎邸(09.5)

 先日、「美の巨人たち」で、東京池之端にある旧岩崎邸をとりあげていました。実はこちら、かなり以前に訪れたことがあったのですが、その時は外観のみの見学でした。放送を見る限り、内部の意匠や装飾もかなり見応えがありそう。天気も良さそうだし、ひさしぶりの東京散歩としゃれこんでみますか。そうそう根岸にある子規庵も機会に恵まれず中を拝見したことがありません。旧岩崎邸を起点、子規庵を終点として、ひさしぶりに根津と谷中あたりをふらふらと逍遥してみますか。永井荷風が「日和下駄」(「荷風随筆集(上) 岩波文庫」)の中でこう語っています。
 われらが住む東京の都市いかに醜く汚しというとも、ここに住みここに朝夕を送るかぎり、醜き中にも幾分の美を捜り汚き中にもまた何かの趣を見出し、以て気は心とやら、無理やりにも少しは居心地住心地のよいように自ら思いなす処がなければならぬ。これ元来が主意というものなき我が日和下駄の散歩の聊か以て主意とする処ではないか。(p.92)
 荷風の審美眼には及びもつきませんが、変人なりの視線と視点で"美"と"趣"を見つけられたら、と思います。
 五月晴れの某日曜日、愛用のデジタル・カメラを首にぶらさげ、デイパックに地図と水と本を詰め込んでいざ出発。まずはJR御徒町駅で下りて、旧岩崎邸をめざします。上野広小路を渡り、歓楽街を抜けて不忍池へ。空の青を映して輝く湖面を右手に眺めながらしばし歩き、不忍通りを渡ってすこし歩くと旧岩崎邸に到着です。門を入ると右へとのぼるなだらかな坂道になっており、左手には鬱蒼とした樹林が生い茂っています。左に曲がり受付で入園料を支払って入園すると、木々の間にクリーム色に塗られた優雅な洋館が見えてきました。このあたりは江戸期には越後高田藩榊原氏、明治初期には舞鶴藩牧野氏の屋敷であったそうですが、その後財閥・岩崎家の所有となり、1896(明治29)年、ジョサイア・コンドルの設計によって岩崎久彌の邸宅が建てられました。それではまず外観から見ていきましょう。まず目に入るのがおとぎ話に出てくるような塔、アンシンメトリーにちょっと右にずらしてあるのが心憎いですね。そして十字の枠がある縦長の窓がリズミカルに並び、その上部にはさまざまな意匠のペディメントが設置され目を愉しませてくれます。(館内にあった解説で知ったのですが、そのうちの一つがオランダ風ペディメント) またピラスター(壁柱)が何本もとりつけられてアクセントになっています。そうそう申し遅れましたが、これがちゃきちゃきの木造建築で、下見板張りになっています。かなり過剰な装飾なのですが、不思議と鈍重な印象は受けず、軽やかで気品すら感じます。柔らかいクリーム色のせいか、はたまたコンドルの絶妙なデザイン感覚・バランス感覚のなせる業か。
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 左手にあるスイスの山荘風の撞球室(洋館とは地下通路で接続)の脇を通って、裏へとまわりましょう。こちらは雰囲気ががらっと変わって、一階も二階も列柱のならぶベランダとなっています。コロニアル様式なのでしょうか。

 本日の四枚です。
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by sabasaba13 | 2010-04-03 08:10 | 東京 | Comments(0)
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