池之端・根津・谷中編(2):旧岩崎邸(09.5)

 それでは邸内に入りましょう。薄暗いエントランスにあがり後ろを振り向くと、ドアの上に半円形のステンドグラスがあります。円と直線を組み合わせた、まるでアール・デコのようなモダンな意匠。床のモザイク・タイルも見事なものです。
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 内部は廊下を中心にいくつかの部屋が配置されていますが、それほど広いものではありません。柱や壁の下板などに彫刻をほどこした木が多用され、ぬくもりのある雰囲気をそこはかとなくかもしだしています。
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 解説によると、イギリスの初期ルネサンスを代表するジャコビアン(ジェームズ1世)様式が採用されており、その特徴は煉瓦の広範な使用、十字型の格子を入れた比較的小さい矩形窓、オランダ風の破風飾り、木彫を活用した家具。圧巻は婦人客室ですね。「美の巨人たち」によると、コンドルは日本の意匠と西欧の意匠を結ぶものとしてイスラム風デザインを愛好したそうで、壁飾り・暖炉・ペルシャ刺繍がほどこされた布張りの天井などによくあらわれています。それにしてもこの時代に、女性のための部屋をもっとも豪華なものにしたのは相当の冒険ではなかったのでしょうか。留学を経験した久彌の見識によるものかもしれません。
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 ベランダには、英国の陶磁器メーカー、ミントンが復元した中世の象嵌タイルが敷き詰められています。(よって歩くことは不可)
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 見事な彫刻がほどこされた連立する二組の柱をしげしげと眺め、それでは二階へと上がりましょう。
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 一室には金唐紙が貼ってありました。これは壁紙の一種で、西洋建築の壁を飾る美しい装飾の革の壁紙をまねて、和紙でつくったものです。(平賀源内の発明という説もあり) 明治以降さかんにヨーロッパに輸出されたが、いつのまにかすたれた幻の逸品です。舞子にある移情閣、呉にある旧呉鎮守府長官官舎、弘前の青森銀行記念館、長野県岡谷の林国蔵旧居でかつて見たことがあります。
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 廊下にあったヒーターには、天使と豊穣の角をデザインした浮き彫りがほどこされていました。そしてある部屋には、和服・丁髷姿のコンドルと奥方くめの写真が飾ってありました。
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 そして一階へ下り、棟続きで建てられている和館へ。やはり明治人としては畳がないとやりきれなかったのでしょう、贅を尽くしたものではありませんが、欄間や釘隠し・引手の洒落た意匠がきらりと光ります。なお床の間や襖に描かれた絵は橋本雅邦の手によるものだそうです。
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 そして外へ出ると、建物裏手にある広大な芝生には色とりどりの小さく可憐な野花が咲き誇り、まるでクリムトの絵のようです。そしてふたたび正面に戻って、もう一度じっくりと建物を眺めました。三菱財閥がどれくらい人々を搾取してその財を築いたかはわかりませんが、少なくともこうした素晴らしい建築を残してくれたことにはお礼を言いたいと思います。ふと脇を見ると、装飾の意匠として多用されていたアカンサス(ハアザミ)が植えられていましたが…あれっ、デロス島で見たのとは違うな。てことはあれはアカンサスではなかったのか。謹んでここに訂正いたします。
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 重要文化財の袖壁には、三菱社章のもとになった岩崎家の家紋「三階菱」が刻んでありました。そういえば安芸の岩崎弥太郎生家にもありました。
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 本日の四枚です。
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by sabasaba13 | 2010-04-04 08:14 | 東京 | Comments(0)
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