ふたたび小海線で中込へ。1875(明治8)年につくられた擬洋風建築の小学校である中込学校がお目当てです。猛暑の中、駅からトボトボ喪家の狗のように十分ほど歩くと、学校の塔=太鼓楼(時計をすえつける費用がなく、ここにつるした太鼓で時を告げた)の先端部が見えてきました。歩くにつれ、だんだんと塔が大きく見えてくるのはけっこうドラマチックです。昔の旅人の気持ちを味わいました。まるでシャルトルみたい。そして到着です。「大草原の小さな家」に出てくるような、アメリカ開拓時代の学校そのままです。

中央に塔、教会を模した縦長のつくり、下見板張りに白ペンキ塗り、テラスに車寄せ。アメリカで建築を学んだ地元の大工、市川代治郎の設計です。近郷の篤志者の寄付で建設費が賄われたとのことですが、いつもながら当時の人々が教育にかけた情熱には脱帽します。内部には丸くて放射状のステンドグラス、そして圧巻は太鼓楼の天井! 残念ながら危険との事で入れなかったのですが、展示写真によると中込を中心とした日本と世界の地名の方位が描いてあります。東京、札幌、ニューヨーク、ロンドン、チンボラソ山(?)… 信州の鼻たれ小僧に「まんずまんずこれから世界に羽ばたいてくれや、よたっかき」と熱く語る大人たちの光景が眼に浮かびます。ホノルル、シャトル(シアトル)、リオデジャネイロといった海外移民の行き先が多いような気がしますが、穿ちすぎかな。それにしても、長野県に明治期の小学校建築が多く、現在でも教育の盛んな県として高名なのは、何故なんでしょうね。
本日の二枚。青雲の志を抱いて、子供達はこの空と塔を眺めたのでしょう。