丹波・播磨・摂津編(27):旧甲子園ホテル(10.2)

 被災地にお住まいの皆さまの無事を心よりお祈り申し上げます。

 それでは中に入りましょう、わくわく。まずは正面の外観です。正面一階部分は二階建てで、水平線を強調した大地が盛り上がったような、まさしくライト様式の建物です。そして客室部分が、両翼に、見ているこちらを抱きかかえるように"コ"の字型に広がっています。巨木のように、あるいは五重塔のように屹立する印象的な二本の尖塔、後で教えてもらったのですが、実はこれ煙突です。玄関中央には現在は使用されていない回転ドア、日本語で「おす」と記されたプレートがとりつけてありました。
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 その横にあるドアから中に入ると、もうそこは遠藤新ワールド。ライトの影響を強く受けながらも、彼なりに咀嚼して磨き上げた素敵な意匠と構造に満ち溢れています。外観と連続するような、レンガ調の壁面や柱、そして石柱。石柱には古代文明風の装飾がほどこされ、水盤らしきものがとりつけられています。その上の照明は、貝殻を模したものでしょうか。このあたり一体の照明・シャンデリアはすべてこのシェル状のデザインで統一されています。
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 そしてエントランスからすこし高いところにロビーがあります。こうした、空間に変化をつける仕掛けが随所にほどこされていて憎い演出です。天井が高く、広々とした空間、そして正面部分は大きなガラス戸が連続してとりつけられ、光を十分に取り入れると同時に中庭を見通せる工夫がしてあります。ヒーターの覆いを飾る、幾何学模様の装飾など、細部にいたるまで神経が行き届いているのはさすがです。しばらくすると、一組の若夫婦と初老の紳士が入室、怪しくうらぶれた風体の私を含めて、計四人が本日の見学者です。そした現われた案内担当の方は、温厚で闊達な好人物、さあいよいよ旧甲子園ホテル見学ツァーのはじまり。そうそう、もうお気づきのように、室内を含め写真撮影は可能、指も折れよと撮りまくりました。
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 まずはロビーから西方向へと向かうと、高低差がつけられた変化に富む空間構成が印象的です。その中央には、石製の水盤(蹲?)が二つ設置されています。上の小さな丸い水盤からあふれた水が、縦に連なる「打出の小槌」の装飾を伝わって、下の多く四角い水盤へと流れるという仕掛けです。水へのこだわり、昨日見た山邑邸を思い出しますね。ライトの影響なのか遠藤の趣味なのかは、判然としませんが。その上部には明り取りの小窓が五つ並んでいます。ある季節のみ、ここから差し込む五筋の光が水盤を照らし、それはそれは幻想的な光景であると写真を見せてくれました。大きな声では言えないが、煙草の煙をふりまいて撮影したとのこと。
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 なおこの富貴を象徴する「打出の小槌」は、このホテル装飾全体の主要モチーフになっています。四角い水盤の周囲にも、壁面にも飾られていました。なお芦屋に伝えられる「打出の小槌伝説」も意識したようです。
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 本日の四枚です。
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by sabasaba13 | 2011-03-12 14:34 | 近畿 | Comments(0)
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