衝撃的な、あまりにも衝撃的な写真でした。「DAYS JAPAN」(2010.6)に掲載されていたものですが、2008年12月27日に突然始まった、イスラエル軍によるガザ地区への攻撃を撮影した写真です。戦闘機60機がガザ地区を標的に空爆を行い、この日だけで少なくとも195人が死亡、300人以上が負傷しました。その中の一枚に、国連が運営するベイト・ラヒヤの学校に降り注ぐ白リン弾と逃げ惑う人々を撮影した写真がありました。白リン弾とは、100以上の子爆弾を空中で放出し、糸を引くように落下しながら燃え続け、人間の皮膚につけば筋肉はもちろん骨まで焼やすという残虐な兵器です。意図的かどうかはわかりませんが、子どもたちのいる場所を、このような残虐な兵器を使って爆撃したというのは紛れもない事実です。イスラエルはこの攻撃を「ハマスに襲撃されている人々を、白リン弾の煙幕で保護しようとした」と説明していますが、撮影したモハンマド・アベド氏は「ハマスなどいなかった」と証言されています。
なぜこのような行為をするのか。イスラエルという国のありようについては常々関心をもっていましたが、それを考えるための一助となる本に出会えました。「ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか」(シュロモー・サンド著 高橋武智監訳 佐々木康之・木村高子訳 浩気社)です。本書の意図を、著者はこう簡潔にまとめられています。
一言でまとめるなら、ユダヤ人とはいかなる存在か、一般に受けいれられているユダヤ人観が当を得ているかどうか―その既成観念を、これまで二〇〇〇年来書かれてきた各種の「ユダヤ人史」の再検討を通じて、転倒させ、それに代えて、現実の世界でのユダヤ人の実像を再構成しようとした書物といえよう。(p.19)
周知のように、聖書に記されている、パレスチナの地におけるユダヤ国家の繁栄、そしてローマ帝国によるそこからの追放、そして離散、この"歴史的事実"が、イスラエルという国家がこの地を占拠しアラブ人を追放する根拠になっています。著者は、該博な知識と鋭い分析を駆使して、この"歴史的事実"は、現在におけるイスラエルの存在・植民活動・軍事行動を正当化するために、聖書を利用して創作したものだと指摘されています。さらに、ユダヤ人とは単一で統一された「種族」ではなく、多種多様な起源をもつ無数の文化的・言語的集団であったと、ユダヤ教の広範囲にわたる布教を軸に述べられています。そして、それらを根拠につくられたイスラエルという国家が、そこに住むすべての市民の国(総人口の五分の一はアラブ系市民)としてではなく、他国で暮らしつづける全世界のユダヤ人の国家のものだと見なしつづけていることを厳しく批判されています。そしてアラブ系市民への凄惨な迫害を"イスラエル内部にうがたれている黒々とした亀裂"と語る氏は、この亀裂から国家を救いだし、周囲のアラブ国家とのきわめて不安定な関係を改善していくためには、ユダヤ人本位のアイデンティティ政策を根本的に変え、国内のパレスチナ系イスラエル人セクターとの関係をその隅々にいたるまで変える必要があると結論されています。本書がイスラエルでも大きな話題となったのは、テルアビブ大学で現代ヨーロッパ史を教えるユダヤ人学者であることによるのでしょうが、冷静かつ真摯な叙述と豊富な史料を駆使した論理的な分析によるところも大きいと思います。もしかすると、アラブ系市民への抑圧を遂行また支持するイスラエルの人々は、この地を占拠する歴史的な根拠はないということにうすうす気づいており、それを意識の底から追い払うために過剰なあまりにも過剰な反応をしているような気もします。イスラエルという国を知り、理解するために必読の書、お薦めです。最後に著者の言を引用します。
私は本が世界を変えうるとは考えていないが、世界が変わりはじめるとき、世界はこれまでと異なる本を求めるものと信じている。(p.16)