「アフリカン・ブラッド・レアメタル」

 「アフリカン・ブラッド・レアメタル 94年ルワンダ虐殺から現在へと続く『虐殺の道』」(大津司郎 無双舎)読了。映画「ホテル・ルワンダ」を見て、ルワンダにおける凄惨な民族浄化(エスニック・クレンジング)と、それに対する国際社会の無力さに愕然としました。嗚呼しかし…そんな感想などいかに牧歌的であるか、本書を読んで思い知らされました。現代世界のおぞましいあり方が、いかに多くの流血と犠牲者を生み出していることか、そして私たちはその戦慄すべき事実を、しかも私たちの暮らしと深くつながっている事実を、いかに知らされていないか/知ろうとしないか。著者の大津氏は、綿密な取材と勇気ある行動力とアフリカの人々への愛をもって、その事実を白日の下にさらけだしてくれました。まずはそのジャーナリスト魂に敬意を表したいと思います。
 いきなり核心から入りましょう。
 アメリカが並々ならぬ関心を注いできたコンゴの鉱物資源、その争奪の戦いの新たなはじまり、それを導いたもの、それが"ルワンダ虐殺"だった。あえていえばコンゴの鉱物資源獲得のためにルワンダ虐殺は仕掛けられたといっていい。さらに地域から旧宗主国フランスを追放することによって地域を再編、強力なアメリカ主導によるアメリカン・グローバリゼーションを実現する。それがルワンダ虐殺のワケであり、黒幕たちのシナリオだった。(p.19)
 その背景を、本書によって補足しましょう。金融危機に見舞われた後、相変わらずグローバリゼーションの推進に力を入れるアメリカにとって新たなインパクトが必要となります。その中心にオバマ大統領は新たな環境技術開発を持ってきたのですね、「グローバリゼーション」と「環境」の合体、前例のない巨大ビジネス="グリーン・ニューディール"の出現です。それにともない、不可欠な素材であるレアメタルの需要もまた跳ね上がりました。その中でも特に重要なのが、コールタンから精製されるタンタラムという黒い粉です。タンタラムは超耐熱性、耐腐食性に優れ、携帯電話、コンピューター、ビデオ・ゲームなど現代のあらゆる小型先端機器のキャパシテーター(蓄電部)として不可欠のレアメタルなのですね。そのコールタンの80%が、コンゴの地下に眠っていると言われます。なお、コンゴのコールタン争奪に拍車をかけ、多くの犠牲者を生んだのが、2000年のPS-2(ソニー)の爆発的人気による不足だといわれていることを付記しておきましょう。氏曰く、"こうしたコールタンをはじめとしたレアメタルの需要増と、300万のアフリカ人の死とはピタリと重なる。先進世界の先端技術開発、莫大な企業利益はアフリカ人たちの死、戦いによってあがなわれていた。(p.239~240)" しかしグレイト・レイクス、ルワンダ、コンゴ一帯はすでにフランスの影響下にありました。そこでアメリカはフランスを排除して豊富なレアメタルを入手するために、この一帯を不安定化させる、つまり戦争を必要とした。ツチ族とフツ族の対立からルワンダ虐殺と内戦が起こると、アメリカは目立たぬようにこれに介入、そしてこれまでの地域秩序を戦争によって崩壊させ、新たな覇者と手を組んでレアメタルを手に入れる。ほんとうは、さまざまな勢力による対立抗争・離合集散があるのですが、とても私の力ではまとめきれません。是非本書を一読していただきたいと思います。そして筆者の眼差しはつねに、その犠牲となるアフリカの人々に注がれます。時には無惨に殺され、時には難民となり、時には"人間の盾"として利用される人々。こうした真摯な姿勢が、このルポルタージュに厚みと深みを与えています。
 さて、重厚長大の旧産業が陰りを見せる中、各国は次世代の成長産業を必死で模索しています。それに欠かせないのがレアメタル。また、CO2削減、石油からのエネルギー転換(燃料電池などの代替エネルギー)、鉛使用(プリント基板、集積回路ほか多くの分野で使われている)に代わる代替メタルの確保など、環境ビジネスにとってもレアメタルは必須の資源です。その多くが埋蔵されるコンゴにおいて、レアメタルを手に入れるために繰り返される戦争・内乱・虐殺、それを陰で操る超大国と巨大企業、そしてアフリカの人々の血で購われたレアメタルを利用したファミコンや携帯電話で嬉々として遊ぶ方々。やれやれ、帝国主義・植民地主義は、より洗練された形で再生産され続けているのだと思わざるを得ません。「人類は半分滅亡しかかっている」「第三次世界大戦が進行中である」という想像力くらいは持ちたいものです。
 現代世界が持つおぞましき構造の一断面を見事に切り取って見せてくれた、万人必読の書。お薦めです。最後にバールのような筆者の言を引用しておきます。
 …狭いが、「心」以外ほとんどが満たされている「パラダイス」に閉じこもる日本人にとって、リアルな人間の戦いと殺し、さらに"異(alien)"に対して思いを展ばす想像力は限られている。(p.99~100)

by sabasaba13 | 2011-06-25 07:22 | | Comments(0)
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