「原発の闇を暴く」

 「原発の闇を暴く」 (広瀬隆・明石昇二郎 集英社新書0602B)読了。1965(昭和40)年、東海村の原子力発電所が稼働して以来、日本という国が存続してきたのは単なる偶然・僥倖かもしれません。それを思い知らせてくれたのが福島の原発事故ですが、やれやれ、政治家・官僚・電力会社の諸氏にはまったく危機感がないようです。もう小手先の対応では事故は防げないことから、なぜ目を逸らすのでしょう。ぜひ本書を熟読して、今、日本の原発がいかに危うい状況にあるかを学んでほしいものです。例えば、日本には活断層の上に建設された原発がいくつもあるそうです。"活断層カッター"の異名を持つ衣笠善博氏たちが、原発建設予定地にある活断層を意図的に「過小評価」して、耐震設計にコストをかけずにすむよう、電力会社に有利な審査をしたためですね。(p.182) そして、爆発した一・二・三号機とも、ほんの500ガル前後という地震の揺れで破壊されたという恐るべき事実。(p.24) また最も危険なのが六ヶ所村再処理工場、ここには高レベルの放射性廃液が240立方メートルもたまっています。お二人の言を引用しましょう。
(広瀬) この廃液は強い放射線を出して水を分解し、水素を発生させます。絶えず冷却して、完璧に管理をおこなわないと爆発する、きわめて危険な液体なのです。この廃液が1立方メートル漏れただけで、東北地方、北海道地方南部の住民が避難しなければならないほどの大惨事になる。私が原発の反対運動を始めた最大の動機は、1977年に、再処理工場の大事故について西ドイツの原子力産業が出した秘密報告書の内容に震え上がったからです。廃液のすべてが大気中に放出されれば、まず日本本土は終ると見ていいでしょう。こんな危険な場所で耐震工事をできるわけがない。
 おまけに、六ヶ所村再処理工場は今回のような津波の想定すらしていません。高台にあるから大丈夫だというが、海岸からたかだか5キロくらいのところにあるのですよ。あそこはなだらかな坂でしょう?
(明石) ええ、再処理工場はそれなりの高台にありますが、ただ、海岸からなだらかな丘陵になっています。僕も六ヶ所村には取材で何度も行っていますから。
(広瀬) 東日本大震災の津波の高さは最大17メートルと言われるけれど、津波は陸上をさかのぼる遡上の力がすごいからね。今回も遡上の高さの最高が40.5メートルに達したことがわかっています。再処理工場に津波が来て電源が喪失したら、世界が終りですよ。
 東日本大震災の本震から約一ヶ月後の4月7日に最大の余震が起こり、岩手、青森、山形、秋田の四県が全域停電になった時、六ヶ所村再処理工場では外部電源が遮断され、非常用電源でかろうじて核燃料貯蔵プールや高レベル放射性廃液の冷却を続けることができたというのです。日本消滅の一歩手前まで行ったというのに、その後も、日本国民とマスメディアは平気で生活している。あそこには3000トンの容量の巨大プールがあって、そこに使用済みの核燃料を受け入れているのですが、もうこのプールはアップアップで満杯なのです。地震で、もしこのプールに亀裂が入って地下に汚染水が漏れ出し、メルトダウンしたらどうするのか。今度は原発100基分だよ。それを考えるとぞっとします。(p.74~76)
 もう言葉もありません。そして本書では、こうした原発建設を推進してきた皆さまを、政・官に原子力関係の産・学が癒着した原発推進者ばかりの共同体=原子力マフィアと表現されています。独占企業の電力会社の潤沢なカネを回し合うことでつながっている運命共同体で、利権の巣窟です。その上で、その重要なメンバーを名指しで列挙し、その所行を批判しています。詳細は本書を読んでいただくとして、何人かを紹介しておきましょう。(敬称略) 放射線影響研究所を仕切ってきた重松逸造、原子力環境整備促進・資金管理センターの理事長・並木育朗(元東電の役員)、専務理事の古賀洋一(経産省からの天下り)、常務理事の塩田修治(関西電力出身)、六ヶ所村再処理工場の宣伝マンである池上彰、原発建設を軌道に乗せた中曽根康弘と茅誠司、福島や青森に核施設を建ててきた小沢一郎(岩手四区)や渡部恒三(福島四区)、原子力マフィアの強固な地盤をつくった東電の六代目社長・平岩外四、長崎大学大学院教授の山下俊一、放射線医学総合研究所出身の岩崎民子などなど。J・M・クッツェーの表現を借りると「なろうことなら、ガラスをぶち破り、手を中まで伸ばしてやつをそのぎざぎざの破れ目から引きずり出し、やつの肉が尖ったガラスの先にひっかかってずたずたに切れるのも構わず、地べたに放り投げて外形もわからぬまでに蹴飛ばしてやりたいという衝動に駆られ」ます。(『夷狄を待ちながら』p.323 集英社文庫)
 ただ、どうも最近の論調では、東京電力と菅直人内閣の手落ちに問題を矮小化しているのが気がかりです。こうした原子力マフィアの仲間たちを白日の下に晒し、みんなで批判して、きちっと落とし前をつけさせることが重要です。「太陽は最強の防腐剤」ですから。また原発をすべて廃棄した場合の代替エネルギーについても、詳細な提案を述べられているのも嬉しいですね。
 というわけで、私たちは今、大きな岐路に立っています。まるで何事もなかったかのように原発と共存していき最悪の事態が起こらぬよう天に祈り続けるのか、それとも原発をすべて廃炉とし安心して暮らせる社会にするのか。私は後者を選びます。アーサー・エディントン曰く「科学というのは刃物だから、玩具にしていると自分の指を切る」。
by sabasaba13 | 2012-05-07 06:17 | | Comments(0)
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