グリンデルワルト編(13):バーゼル市立美術館(10.12)

 旧市街のセント・アルバン通りをすこしぶらつき、ヴェットシュタイン橋からライン川と大聖堂を眺め、そして宮殿のようなバーゼル市立美術館に到着です。
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 1671年に開設された世界最古の公共美術館の一つで、ここバーゼルで印刷業などにより財を成したアマーバッハ家(Amerbach)がコレクションした美術品をバーゼル市が購入し公開したものが基となっているそうです。中庭には氷が張られ、スケートを楽しむ子どもたちや家族連れを、『カレーの市民』(ロダン)たちが気難しげな顔をして見詰めていました。
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 体がすっかり冷え切ったので、カフェで珈琲を飲み一休み。さあそれでは入館しましょう。入館料11スイス・フランを支払おうとすると、係の女性はにこやかに曰く「第一日曜日は無料です」。やったあ! なんてついているのだろう。もしかしたら糾える縄のように、今回の旅は本当に福だったりして…いやいやいやいや予断は許せない。明日がピーカンだったら今度こそ幸運だと信じましょう。荷物と上着をクロークに預け、最上階から見学することにしました。なお写真撮影は禁止ですが、これはフラッシュの光を防ぐためか、あるいは絵葉書販売促進のためか、理由はよくわかりません。『大豹に襲われる黒人』(アンリ・ルソー)、『ドービニーの庭』(フィンセント・ファン・ゴッホ)、『ナフェア・ファア・イポイポ(あなたはいつ結婚するの?)』(ポール・ゴーギャン)といった、綺羅星のような近代絵画の名作を堪能していると、真正面の奥に一番会いたかったあの絵が見えてきました。そう、「一級の野蛮人」ことオスカー・ココシュカの縦181センチ、横220センチの大作、『風の花嫁』(1914)です。なんとせつなく、哀しく、激しく、そして美しい絵でしょう。横たわり抱き合う男女、うっとりととろけるように眠る女性、しかし男は空虚な表情で虚空を見つめています。この二人を包むようにとりまく、雲のような、波のような、空気のような"青"。幾重にも幾重にも塗り重ねられた、さまざまなニュアンスの壮絶な"青"。青の激しいうねり、女の陶酔、そして男の虚無。いったいどんなテーマが隠されているのでしょう。まずは、スーパーニッポニカ(小学館)から引用します。
オスカー・ココシュカ Oskar Kokoschka (1886―1980)
オーストリアの画家、劇作家。3月1日ペヒラルンに生まれ、ウィーン工芸学校に学んだ。1908年ごろからアール・ヌーボーの影響を脱して表現主義の傾向に向かう。10年ベルリンの「シュトゥルム(嵐)」のサークルに加わり、「絵筆の占師」の異名をとった独特の心理的肖像画によって注目される。第一次世界大戦に従軍して戦傷を受け、19年ドレスデン美術学校教授、24~31年中近東、北アフリカ、ヨーロッパ各地を旅行して、広大な視野をもつバロック的な風景画を描く。37年ナチスによって作品を没収され、38年ロンドンに亡命。同地でギリシア神話をモチーフとする作品を描いて、戦争とナチスへの抗議を行った。肖像、風景、神話のほかに幻想的な絵も描いているが、鮮やかな色彩の諧調を特色とし、思想的な内容を盛った石版画の連作も試みている。46年ウィーン名誉市民となり、53年以降はスイスのレマン湖畔のモントルーに住み、80年2月22日同地に没した。
 この絵に関しては、『世界名画の旅5』(朝日新聞社)で詳しく紹介されているので、私の文責で要約いたします。この絵に描かれた男性はココシュカ本人、そして女性はアルマ・マーラーです。貴族一門の父を早くに失い、音楽だけを心の友とする寂しい少女期を過ごした美しい彼女の初恋の相手はグスタフ・クリムト。母親は「早過ぎる」とこれを諌め、やがて彼女は指揮者・作曲家のグスタフ・マーラーと結婚します。楽才に恵まれていたにもかかわらず、マーラーはアルマに作曲を禁じ、妻としての献身だけを求めました。そして夫を失った彼女の前に現れたのがココシュカです。二人は恋に落ちますが、彼の子を宿したアルマは生むことを拒否します。彼女に母親像を求めたココシュカと、自由を求めたアルマ、二人の心はすれ違ったようです。そうした時に描かれたのがこの『風の花嫁』です。絶望したココシュカは第一次世界大戦に従軍して重傷を負い、アルマは建築家のグロピウスと結婚、二人の愛は引き裂かれました。戦争から戻ったココシュカは人形師に頼んで、細部まで克明に似せた等身大のアルマの人形をつくらせ、観劇や食事のときも傍らから離さなかったそうです。そして彼女が死ぬ十カ月前に、ココシュカからの電報が届きました。"最愛なるアルマ。バーゼルにある私の作品『風の花嫁』の中で、私達は永遠に結ばれている" 贅言はここまで、あとはただ絵に見惚れるのみ、なお余談ですが、1960年、ココシュカはマルク・シャガールとともに、ヨーロッパの文化・社会・社会科学に貢献した人物に与えられるエラスムス賞を受賞したというのも、私にとっては不思議な因縁ですね。

 本日の三枚です。
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by sabasaba13 | 2012-05-24 06:16 | 海外 | Comments(0)
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