山形編(7):楢下宿(11.8)

 再びバッグをコインロッカーに預け、まずはタクシーで楢下(ならげ)宿と花咲山展望台に行ってみましょう。駅まで客待ちをしていたタクシー…ん? いやにその数が多いぞ。これはもしかすると、観光客が激減しているのではないか。乗り込んだタクシーの運転手さんに訊ねると、憂鬱そうな表情で、観光客は例年の半分ほどだと答えてくれました。このあたりの放射線量測定値はわかりませんが、観光客が敬遠するのはよく理解できます。原発事故のもたらす甚大な被害に、肌に粟が生じ心肝が寒くなりました。なぜ私たちは核(原子力)発電所に反対しなかったのでしょう? なぜ核(原子力)発電所建設を推し進めた自由民主党に過半数の議席を与えてきたのでしょう? "だまされた"ではすみません。臓腑を抉るような猛省とともに、真の意味での学力、具体的には批判精神・知的好奇心・社会への関心・不正や不公正への怒りとそれを正すための戦略と行動力、そういったものを私たちは身につけなければなりません。伊丹万作曰く、"だまされるということ自体がすでに一つの悪である" 駅前には斎藤茂吉の歌碑がありました。"朝ゆふはやうやく寒し上山の旅のやどりに山の夢みつ" 1931(昭和6)年に長兄の病気を見舞うため上山に数日滞在したときに詠んだ歌で、歌集『石泉』におさめられているそうです。斎藤茂吉は山形の金瓶の生まれ、次の茂吉記念館前駅近くには彼の記念館があります。かなり前に訪れたのですが、茂吉は小便が大変近く、いつも「極楽 茂吉」と書いてある小さな金のバケツを持ち歩いて用を足したというエピソードと、そのバケツが展示してあったことしか覚えておりません。C'est la vie.
山形編(7):楢下宿(11.8)_c0051620_7485341.jpg

 そしてタクシーに乗り込み、二十分ほど走ると楢下宿に到着です。宮城県七ヶ宿から金山峠を越え、上山にぬける羽州街道の宿場町で、江戸時代ここを宿場として参勤交代を行った藩は、新庄藩・庄内藩・秋田佐竹藩・津軽藩など奥州の13藩に及んだそうです。ただ残念ながら往時の俤は失われ、旧家あまり残っていませんが、そのうち大黒屋・庄内屋・滝沢屋が公開されていました。集落の真ん中を流れる金山川にかかる覗橋(1882年竣工)と新橋(1880年竣工)は、見事な石橋でした。解説板によると、明治初期に三嶋通庸が山形県令になると、西洋の土木技術を導入した石の橋を架けることを奨励したそうです。
山形編(7):楢下宿(11.8)_c0051620_7493857.jpg

 そして上山市街へと戻ります。運転手さん曰く、上山温泉には、古い順に、湯町、新湯、葉山という三つの温泉街があるそうです。その葉山の裏山にあるのが花咲山展望台。未舗装の狭い山道を数分ほどのぼると到着です。そして中空に突き出たような展望台の真ん前には、出たな妖怪、「恋人の聖地」碑がありました。盲亀の浮木、優曇華の花、まさかここで遭遇するとは想定外。なお「恋人の聖地」とは、NPO法人地域活性化支援センターが、地域活性化および少子化対策として、各地を代表する公共的な観光施設・地域を中心に認定したもので、プロポーズに適したロマンティックな観光情報発信を行なっています。こ奴に対する罵詈雑言は福岡タワーのところで飛ばしたので、そちらをご参照ください。別に出会いたくもないのに遭遇してしまう物件、これまでも福岡タワー、伊良湖岬尾道で、不覚にもでくわしてしまいました。ま、別に目くじらを立てるほどのことではありませんが。なお余談ですが、"目くじら"とは目尻のことで、鯨とは関係ないそうです。閑話休題、ここからの眺めは絶景でした。
山形編(7):楢下宿(11.8)_c0051620_7494865.jpg

 十重二重、重畳と連なる山々に抱かれたひそやかに息づく緑の沃野と街並み、残念ながら蔵王連峰は靄の中でしたが、それでもまるで小宇宙のような光景です。それを一望のもと手に取るように眺める、思わず"国見"という言葉を実感しました。スーパーニッポニカ(小学館)によると、"天皇や地方の首長が高い所から国の地勢や人民の生活状態などを望み見ること"ですね。天皇や首長は脇に置いておくとして、これが本来の「くに」なのだと思います。長い長い時をかけて編みあげてきたヒューマン・スケールの地域共同体とでも言えばいいのでしょうか。これくらいの規模だったら、愛くに心(愛郷心・patriotism)もおのずと湧こうというものです。思うに近代とは、経済力と軍事力を効率的に増強するために、こうした「くにぐに」を中央集権的な国家権力が絡め取り、愛国心(nationalism)という粘着剤をまぶしながら「国」へと編み直していった時代なのかもしれません。日本という「国」の歴史よりも、こうした「くに」のそれの方がはるかに長い悠久の時を刻んできたことを銘肝したいと思います。
山形編(7):楢下宿(11.8)_c0051620_7503876.jpg

 なお晴れた日に撮影した写真が掲示してありましたので掲載しておきます。蔵王連峰が眺望できるこんな快晴の日に再訪できるよう、近くにあった幸の鐘を叩いて祈りました。余談ですが、私の初スキーはあそこ、雲に隠れた地蔵山。「怪我せぬようお地蔵さまにお参りしよう」と先輩に騙されてロープウェーに乗せられ、ザンゲ坂をこけつまろびつ転げ下った苦い思い出があります。
山形編(7):楢下宿(11.8)_c0051620_7504450.jpg


 本日の三枚、上が覗橋、真ん中が新橋です。
山形編(7):楢下宿(11.8)_c0051620_7544697.jpg

山形編(7):楢下宿(11.8)_c0051620_7553981.jpg

山形編(7):楢下宿(11.8)_c0051620_7552860.jpg

by sabasaba13 | 2012-11-29 07:56 | 東北 | Comments(2)
Commented by 村石太レディ at 2012-12-02 16:21 x
民主党 議席 半分 で プログ検索中です。
日本未来の党 まだまだ 政権を 握るには 大穴かなぁ。
今 ウェーブで 衆議院 議席 を 観ています。 現在 民主党衆議院議席242ですね。自民党衆議院議席118議席。
3点セットというか 脱原発 消費税増税反対 TPP反対 に するには、政権を とるしかない野党ですね。
自民党は 野党なのかなぁ?政治研究会(名前検討中
Commented by sabasaba13 at 2012-12-05 15:57
 こんにちは、村石太レディさん。いよいよ投票日が近づいてきましたね。慎重に比較考量し、一票を投じたいと思います。おっしゃるとおりの3点セットに加え、福島を中心とした放射能汚染への対策と、日米安保条約の是非も、判断の材料にするつもりです。
<< 山形編(8):上山温泉(11.8) 山形編(6):長井(11.8) >>