「就職がこわい」

 「就職がこわい」(香山リカ 講談社)読了。「いいわけえもんが、言い訳していいわけ」などと口走ってしまう歳になりました。「最近の若者」が就職できない/したがらない、ということはうすうす知っていたので、この本で実情を知りたいなと読んでみたわけです。いや、驚きました。
 文部科学省の調査では、2003年度の大学卒業生の就職率は55.0%だそうです。わが目を疑いましたね。大学院や専門学校への進学は含まれていないのですが、いやはやそれにしても凄い数字です。そして2003年の国民生活白書によると、フリーターの数は417万人(2001年)! もちろん、新卒を採用しないという企業側の態度や、その背景にある長期不況ということもあります。しかし、それと同じくらい、いやそれ以上に、若者が自らの意思で就職しないのだ、というのが著者の主張です。
 精神科医である彼女は、現在大学教授の任を勤めながら就職委員として苦労されているとのことなので、その分析にはリアリティがあります。詳細については本書を読んで、愕然としていただきたいと思います。何かとんでもない心理的な重しが、彼ら/彼女らを就職や就職活動から遠ざけているのですね。底なしの不安感、面接における“被害者意識”、体力や気力の極端な低下あるいは枯渇、とてつもない自信のなさ、未来の自分を今の自分の延長として考えられないという一種の解離性障害、職業選択に完璧な理想を求める純粋さ、「自分にしかできないことがきっとあるはず」と、いつ来るともしれない指名を何もしないで待ち続ける自己愛、こうしたものが今の若者を蝕む心理的重しとなり、就職から彼らを遠ざけているというのが、著者の主張です。他にも、パラサイトやジェンダーに関する興味深い指摘も多々あり、あっという間に読み終えてしまいました。要するに、経済が好転しても、就職しようとする若者のパーセンテージはそれほど増えないのでないか、ということですね。
 眼前にゴルディアスの結び目をつきつけられたような気がします。もうこうなったら、「ぐだぐだ言ってねえで、親元を離れてさっさと働け、このたわけもん!」と叫んで一刀両断するしかないのでは… これは是非、若者からの反論や批判も聞いてみたいですね。

 なお若者が安易にナショナリズムに走る傾向があることを、非常に心配しています。著者は「〈私〉の愛国心」(ちくま新書485)という本も書いており、そのことに関しても分析をしていますが、今回の著作では次のように述べています。
 何も考えられず、自分が何をしたいのかもよくわからないので、アイデンティティの一部であることがあらかじめわかっている「日本人」「日本文化」にすがろうとしているわけだ。「日本人として生きる」といった強い決意を秘めての選択などでは、もちろんない。たとえて言うなら、使えるコネのなかでも最も見端(みば)が良いのがこれだった、という感じだ。
 これは鋭い指摘だと思いました。胸のつかえと腹のもたれと頭痛と眼鏡の曇りが、すっと消えたようです。最も深刻な事態は「思考停止」ということなのかもしれない。もちろんわれわれ、いい年こいた大人を含めてのことですが。少なくとも「感動した!」と連呼する首相を、「他の人より良さそう」という理由で支持する方が多いという状況は、相当深刻だと思います。
by sabasaba13 | 2005-05-29 08:17 | | Comments(0)
<< ジャン・ワンの無伴奏チェロ組曲 沖縄編(7):本島(03.8) >>