三渓園編(3):三渓園(11.12)

 鎌倉心平寺の地蔵堂を持仏堂とした天授院、徳川家康が京都伏見城内に建てたという月華殿、三溪が建てた一畳台目の極小の茶室・金毛窟を見学して蓮華院へ。
三渓園編(3):三渓園(11.12)_c0051620_641750.jpg

 こちらも三溪が建てたもので、竹林にある茶室というコンセプトだそうです。土間の中央にある太い円柱と、その脇の壁にはめ込まれている格子は、宇治平等院鳳凰堂の古材と伝えられるそうです。御門と同様、京都東山の西方寺にあった門を移築した海岸門のあたりにはひときわ見事に色づいた楓がありました。
三渓園編(3):三渓園(11.12)_c0051620_65730.jpg

 それでは築山にのぼりましょう。三重塔の奥に歩いていくと、関東大震災(1923)で倒壊した松風閣の残骸がありました。
三渓園編(3):三渓園(11.12)_c0051620_653394.jpg

 解説板を転記します。
 初代・善三郎が別荘として明治20年ごろに築造した建物で、その名称は伊藤博文によるものである。…断崖に立ち東京湾の絶景を望むことができる松風閣は、三渓の代となり本邸・鶴翔閣が建てられると、重要な客をもてなす、いわゆるゲストハウスとして増築がなされた。大正5(1916)年には、アジア人初のノーベル賞受賞者であったインドの詩人・思想家のラビンドラナート・タゴールがアメリカへの講演旅行の途中、ここに数ヶ月滞在し、詩「さまよえる鳥」をのこしている。
 この間、詩聖タゴールは日本についてどう考えたのか。非常に興味あることですが、最近読んだ「日本の百年5 成金天下」(今井清一 ちくま学芸文庫)で触れられていました。長文ですが、たいへん重要な内容ですので引用します。
 タゴールは5月29日に神戸についてから9月2日に日本を去ったが、その大半を横浜の原三渓邸で送り、東京帝大、慶応、早稲田、日本女子大などに講演にもいった。慶応では「日本の精神」と題する講演をおこなったが、それは日本の国家主義が際限なく膨張することにたいする警告であった。
 「もとより私は自己防禦のための現代的な武器を取得するのを怠ってよい、ということを意味するつもりはありません。しかしこのことは、日本の自衛本能の必要以上に決して出てはならないものであります。(略) もしこの人びとが力を求めるに急なあまり、自分の魂を犠牲にして武器を増加しようとしたら、危険は、敵の側よりもその人たち自身の側にますます大きくなっていくものであるという事実を、日本は知らねばなりません。」
 「日本にとってそれにもまして危険なのは、西洋の外観を模倣することではなく、西洋文明の原動力を日本自身の原動力として容認することであります。(略) 今日西洋文明が流行している国においては、国民のすべてがその少年時代からあらゆる方法によって、憎悪と野望とを養いそだてることを教えこまれているのであります。歴史のなかへ半面の真理と虚偽とをつくりだして、それを人びとに教えこもうとするのです。(略) そうすることによって、国民のあいだに絶えず隣人や他国家にたいする悪意をかもし出そうとしているのであります。これこそまさに人類の泉に毒をなげ入れるものであります。(略) したがってわたくしは、西洋の政治思想の乱暴な圧力が、日本のうえに被いかぶさってくることを恐れているのです」(『タゴール生誕百年祭記念論文集』 1961)
 そしてインドに帰ると、彼は『西洋における国家主義』のなかで、もっと端的に論じた。
 「わたしは日本において政府の民心整頓と国民の自由の刈り込みに全国民が服従するのをみた。政府が種々の教育機関を通じて国民の思想を調節し、国民の感情をつくりあげ、国民が精神的方面に傾く徴候を示すときには油断なく疑惑の眼を光らせ、政府自身の仕方書にしたがって、ただ一定の形の塊に完全に鎔接するのに好都合なように(真実のためではなく)狭い路を通って導いていくのを見た。国民はこのあまねくいきわたる精神的奴隷制度を快活と誇りをもってうけいれている。それは自分でも『国家』と称する力の機械になって、物欲のために他の機械と覇を競おうとの欲望からである。」(『タゴール生誕百年祭記念論文集』より) (p.482~3)
 背筋を節足動物が這いあがるような気持ちにさせられます。子どもたちに、憎悪と野望、そして歴史における半面の虚偽を教え込み、隣人や他国家にたいする悪意を醸し出す。政府が種々の教育機関を通じて国民の思想を調節し、国民の感情を作り上げ、ただ一定の形の塊となるよう導いていく。そして国民は、このあまねくいきわたる精神的奴隷制度を快活と誇りをもって受け入れ、『国家』と称する力の機械になって、物欲のために他の機械と覇を競おうとする。嗚呼、現在の日本はこの情況からどれほど変化したのでしょうか。いまだに、「人類の泉に毒をなげ入れる」行為をしつづけているのではないのでしょうか。タゴールの言に謙虚に耳を傾けるべきだと思います。

 本日の二枚です。
三渓園編(3):三渓園(11.12)_c0051620_65588.jpg

三渓園編(3):三渓園(11.12)_c0051620_661557.jpg

by sabasaba13 | 2013-05-29 06:06 | 関東 | Comments(0)
<< 三渓園編(4):三渓園(11.12) 三渓園編(2):三渓園(11.12) >>