スターバト・マーテル

 最近、歌にはまっている山ノ神、歌曲の個人レッスンを受けたり、合唱団に入ったりと、人生を謳歌しております。その彼女から誘われた演奏会が、ドボルザークの「スターバト・マーテル」。何でも合唱曲の名曲だとか。うーむ、どこかで耳にしたことのある曲名だなあ。さっそくウィキペディアで調べてみると、3世紀に生まれたカトリック教会の聖歌の1つで、わが子イエス・キリストが磔刑となったときに母マリアが受けた悲しみを思う内容だそうです。冒頭の一節が"Stabat mater dolorosa"、「悲しみの聖母は立ちぬ」という意味なのですね。パレストリーナ、ヴィヴァルディ、ペルゴレージ、ハイドン、ロッシーニ、プーランク、ペンデレツキなど錚々たる作曲家がこの歌詞に曲をつけていますが、これもその一曲。ようがす、つきあいましょう。場所は上野の東京文化会館、平日なのでお互い仕事をこなした後に会館内の席で落ち合うことにしました。開演は午後七時、私は六時には上野駅に着けそうなので、駅構内で夕食をとることにしましょう。事前にインターネットで調べたところ、候補となる店を二つ発見。まずは王道、洋食の「たいめいけん」、もう一つは覇道、アイリッシュパブの「スタシェーン(Stasiun)」です。メンチカツか、はたまたフィッシュ&チップスにギネス1パイントか、これは究極の選択ですね。ハックルベリー・フィンよろしく、"私は、息をこらすやうにして、一分間じつと考へた。それからかう心の中で言ふ。「ぢやあ、よろしい、僕は」"メンチカツにしよう。ビールを飲むと寝ちゃいそうだから… 店内はほぼ満員でしたが、幸い席に着くことができました。伝統の味、50円のコールスローと50円のボルシチ、そしてメンチカツとオムライスのプレートを注文。『橋本治と内田樹』(橋本治・内田樹 ちくま文庫)を読みながら待っていると、しずしずと見参。それではいただきましょう。さくっ。ん? ジューシーな肉汁が迸らないぞ。以前に食べた時は、「あっやめて」と懇願したくなるくらい断面から流出したような気がするのですが、美化された思い出なのでしょうか。オムライスも凡庸な味。駅ナカへの進出や駅弁の販売など経営を広げ過ぎたため、料理の質が下がったような気がします。先ごろ釧路のキッチン「スコット」(釧路市末広11‐1)で食べたメンチカツが衝撃的な美味しさだったため、評価が厳しくなったのかもしれませんが。
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 そして文化会館へ、ロビーに入ると中央にモダンな彫刻があることにはじめて気づきました。作者銘を見ると流政之、旅行をしていると時々出くわすアーティストです。今インターネットで調べたところ、題名は『鳥追い』。なるほど、パパゲーノをイメージしてつくられたのですね。
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 座席に行くと、すでに山ノ神は到着しておりました。隣りに座って、いただいた『月刊 都響』を拝見。本日の演奏は、指揮/レオシュ・スワロフスキー、ソプラノ/エヴァ・ホルニャコヴァ、メゾソプラノ/モニカ・ファビアノヴァー、テノール/オトカール・クライン、バス/ヨゼフ・ベンツィ、合唱/スロヴァキア・フィルハーモニー合唱団、そして東京都交響楽団によるものです。解説には、長女に先立たれ、その後も次女・長男を失うという悲運に見舞われたドボルザークが、イエスを失った聖母マリアの悲しみに自らのそれを重ねる思いで作曲したとありました。やがて舞台に出演者がそろい、厳かに曲が始まりました。全十曲、すべてがラルゴ、ラルゲット、アンダンテとゆったりとしたテンポで設定されています。ああ何て美しい曲だ…実はその美しさと、疲労と、胃の腑につまったメンチカツ+オムライスのために、白河夜船でした。メロディとハーモニーと心地よさにうとうとっとなり、ffで目が覚め、またうとうとっの繰返し。でも美しい音楽とともにまどろむのも幸せなことだよね、と山ノ神に言い訳をするしかない私でした。
by sabasaba13 | 2013-11-03 06:18 | 音楽 | Comments(0)
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