以上、拙い要約でした。というわけで、戦後のオーストリアと日本には、戦争責任からの逃避と歴史の忘却という点で類似したところがあるのですね。しかし大きな違いは、国際的な批判を契機に、歴史に対して真摯に向き合う努力をはじめたことです。日本の場合は、教科書問題や慰安婦問題という批判を受けても、今に至るまで歴史から眼を背け続けています。さきほどの飛行機内でもらった新聞「FINANCIAL TIMES」に、"Anti-Japan protests flare across China as crisis deepens over disputed islands"という記事が載っていましたが、尖閣諸島や竹島をめぐる問題にも、日本のそうした態度に対する怒りや憤懣が反映されているのではないのでしょうか。ここで疑問に思うのは、何故、オーストリアに対しては国際的(というよりは欧米による)批判が沸き起こったのに、日本に対してはそれが起こらないのか、という点です。欧米、特にアメリカら歴史問題に対する批判が起きたら、属国である日本は慌てふためいて態度を変えるはずなのに。ここで思い出すのは、エメ・セゼールが「帰郷ノート/植民地主義論」(平凡社ライブラリー)の中で述べている言葉です。
彼らがヒトラーを罵倒するのは筋が通らない。結局のところ、彼が赦されないのは、ヒトラーの犯した罪自体、つまり人間に対する罪、人間に対する辱めそれ自体ではなく、白人に対する罪、白人に対する辱めなのであり、それまでアルジェリアのアラブ人、インドの苦力、アフリカのニグロにしか使われなかった植民地主義的やり方をヨーロッパに適用したことなのである。(p.138)白色人種を虐殺した白色人種は許せないが、黄色人種による黄色人種の虐殺には関心がないということなのでしょうか。 論点が少々ずれましたが、オーストリアと日本における歴史教育の違いについて、一言。2000年5月に出されたオーストリアの前期中等教育の教育課程基準では、教育の目的を次のように掲げています。 普通教育学校は、知識の獲得と能力の開発、そして価値の伝達につとめるものであり、その際には自立的かつ批判的な思考が特に促されることになる。(中略)普通教育学校での授業は、人権を守る義務を負った民主主義に積極的に貢献しなければならない。自ら判断し、批判し、決定し、行動する能力を育むことが、多元的で民主主義的な社会の安定にとって決定的に重要である。生徒たちは、ますます国際化する社会のなかで、世界に対する開放性を教えなければならない。日本の中学校学習指導要領、歴史的分野の目標は以下の通り。 歴史的事象に対する関心を高め、我が国の歴史の大きな流れを、世界の歴史を背景に、各時代の特色を踏まえて理解させ、それを通して我が国の伝統と文化の特色を広い視野に立って考えさせるとともに、我が国の歴史に対する愛情を深め、国民としての自覚を育てる。"自ら判断し、批判し、決定し、行動する能力"を重視する国と、"国民としての自覚"を重視する国。ま、日本という国家は、判断と決定を人任せにし、批判も行動もしない国民を育成したいのでしょうね。そして、「所得の多い家庭の子どものほうが、よりよい教育を受けられる傾向」を「やむをえない」と考える人が52.8%を数えるわが日本(朝日新聞2013.3.21朝刊)、いよいよ日本は奈落の底へ動き出したようです。ね、安倍伍長。 本日の二枚です。 ![]() ![]()
by sabasaba13
| 2014-02-27 06:21
| 海外
|
Comments(0)
|
自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
カテゴリ
以前の記事
2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 お気に入りブログ
最新のコメント
最新のトラックバック
検索
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||