イタリア編(95):プラーター(12.8)

 時刻は午後六時、本日の〆はプラーター(Prater)の大観覧車(Riesenrad)といたしましょう。路面電車を二本乗り継いでプラーターへ。かつてはハプスブルク家の狩猟地でしたが、前述のようにヨーゼフ二世の緑地開放政策によって、1766年に市民に開放されました。1873(明治6)年には万国博覧会の会場となり、日本も初参加しています。岩倉使節団もこれを見学したそうで、久米邦武の『米欧回覧実記』にその記録があるそうです。さっそく本棚から同書をさがしだすと、岩波文庫の第五巻にその記述がありました。参考までに、その一部を引用しましょう。
 博覧会場ハ、維納ノ東北ナル、「プラーテル」偕楽苑ニ於テ、大円堂、長廊(?)(ガルリー)ヲ建起ス、此「プラーテル」苑ノ地タル、多脳(ダニフ)ノ中洲ニ位シ、全洲ハ五方英里(マイル)余、平坦ノ場所ナリ、此ニ細草ヲ播蒔シ、樹木ヲ植エ、中ニハ茶亭酒店等アリ、景色ヲ清浄ニ修メ、府中ノ遊楽地トナシ、府ノ東辺ヲ中枢トシ、三条ノ斜線ヲ日脚状ニ劃シ、大路ヲ開ク、両側ニ「ホースチェストナット」〈楢ニ似テ緑陰愛スヘキ樹ナリ〉樹ヲウエ、毎条坦平、遠キニ連リ髪ノ如シ、其壮美ナルコト、仏国巴黎ノ「バーテブロン」ニ比スヘキ勝地ナリ、今度其正中ニ於テ、会場ノ地域ヲ相シ、堂(?)ヲ建築セリ… (p.25~6)
 そしてプラーターの森の入口には遊園地があり、そこに映画『第三の男(The Third Man)』に搭乗した有名な大観覧車が今でもくるくると回っています。
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 下から俯瞰すれば、気分はもうジョゼフ・コットン。入場券を買って乗り場に行く途中、いきなりワゴンの窓枠セットに連れていかれ、写真を撮られました。有料の記念写真ですが、こうした商売は万国共通なのですね。
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 そして乗り場へ行くと、突然観覧車が止まり、ワゴンの中に設えたテーブルに料理やワインが運びこまれます。そして老年のご夫婦が乗り込み、再び稼働。へえ、ワゴン貸し切りで料理を食べることもできるんだ。ま、ボンビーなわれわれには縁のない話ですが。
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 順番が来たので、12人乗りのワゴンに乗り込みました。ゆっくりと上昇するにつれて、ウィーンの街を一望できるようになります。
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 下を見下ろせば、道行く人がまるで米粒のよう。ああ、『第三の男』のあのシーンを思い出しますね。監督キャロル・リード、脚本グレアム・グリーン、撮影ロバート・クラスカー、音楽アントン・カラス、出演はジョゼフ・コットン、アリダ・ヴァリ、オーソン・ウェルズ、トレヴァー・ハワード。敗戦直後のウィーンを舞台に蠢く人々の欲望、光と闇の対比をとらえたロバート・クラスカーのカメラ・ワーク、哀切きわまるチターの調べ、五年に一回は見たくなる名画です。ホリー・マーチンス(ジョゼフ・コットン)と再会してこの大観覧車に乗り込んだハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)が、小さな点としか見えない地上の人間たちを指して「あの点の一つが永遠に止まる度に所得税抜きで2万ポンドやる、と言われたら断るかね?」と言ったシーンです。そして別れ際にハリーが言った名文句が、「だれかがこんなこと言ってたぜ。イタリアではボルジア家30年間の圧政下は戦火・恐怖・殺人・流血の時代だったが、ミケランジェロやダ・ヴィンチの偉大なルネサンスを誕生させた。片やスイスはどうだ? 麗しい友愛精神の下、500年にわたる民主主義と平和が産み出したものは何だと思う? 鳩時計だ!」 鳩時計の産地はババリアのシュヴァルツヴァルトだという指摘はさておいて、安倍晋三伍長の言動に、ハリー・ライム的なるものを感じるのは私だけでしょうか。なお、アリダ・ヴァリがジョゼフ・コットンを一顧だにせず通り過ぎる、あの有名なラスト・シーンの並木道は中央墓地にありますが、ここは前回訪れました。今度は、ハリー・ライムが逃亡した地下水道をめぐるツァーに参加してみたいですね。
 大観覧車からおりると、出典不明の顔はめ群像看板があったのでとりあえず撮影。あまり似ていないオーソン・ウェルズの似顔絵を撮影して、地下鉄に乗ってケルントナー通りへ。
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 昨晩と同じ立ち食いスタンドでケバブとフランクフルトをいただきました。すると山ノ神が、となりでヌードルをぱくついているサラリーマン風の男性と会話をはじめます。チューリヒ出身の方で金融関係の仕事をされており、夏休みはとれず、十月にバカンスでバリ島へ行く予定だそうです。
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 なおこの近くで、レオシュ・ヤナーチェクとフーゴ・ヴォルフの記念プレートを発見。さて明日はいよいよ帰国です。ホテルに帰って荷づくりをしなければ。
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 本日の五枚、一番下は以前に撮影した中央墓地の並木道です。
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by sabasaba13 | 2014-03-15 06:28 | 海外 | Comments(0)
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