マーラー交響曲第一番「巨人」

c0051620_6163718.jpg ベートーヴェンの「第九」を拝聴して以来、指揮者・広上淳一氏の大ファンで、その後は「薔薇の騎士」や「シェエラザード」を聴きにいきました。「チケットぴあ」にも登録し、氏のコンサート情報を送ってもらっておりますが、ある日届いたメールでラフマニノフのピアノ協奏曲第二番と三番マーラーの交響曲第一番「巨人」を演奏されることを知りました。オーケストラは京都市交響楽団、うーんどうしよう。同オケと私の接点は、京都旅行で楽器運搬用トラックを見かけただけです。まあ広上氏が振るのなら間違いないだろうし、演奏される曲目にも食指をそそられます。この前、ラフマニノフのピアノ協奏曲第三番を聴いたので第二番もぜひ聴きたいし、マーラーも全曲を生演奏で聴いてみたいと思っています。ちなみにこれまで聴いたのは第三番第八番のみ。よし、購入しましょう。以前に読んだ『マーラーの交響曲』(金聖響+玉木正之 講談社現代新書)の第一番についての箇所を読み直し、山ノ神と手を組んでサントリーホールにのりこみました。
 まずは独奏者ニコライ・ルガンスキーを迎えてのラフマニノフ、ピアノ協奏曲第二番です。底なしの甘美な叙情性と華麗なピアノ技巧、力強く弾ききったルガンスキー氏とそれを分厚く支えた広上氏+京響。名曲中の名曲を心ゆくまで堪能させていただきました。アンコールは、メトネルのCanzona Serenata op.38-6、初めて聴いた美しい小品でした。
 休憩をはさんで、いよいよマーラーの交響曲第一番「巨人」です。後で知ったのですが、京都市交響楽団がマーラーの交響曲を演奏するのは初めてだったのですね。曲の隅々まで神経が行き届き、かつ超弩級の迫力に満ちた渾身の演奏でした。冒頭、美しく澄んだ7オクターブにも広がるpppのA音が響き始めるとただならぬ緊張感がただよってきます。第一楽章(ゆるやかに、重々しく~自然の響きのように)の清澄と愉悦、第二楽章(力強く運動して、しかし速すぎずに)の力強さと躍動感、第三楽章(荘重に威厳をもって、ひきずらないように)の諧謔。広上氏の適確で情感豊かな指揮と、それにしっかりと応えるオケ、これぞ楽興の時でした。なお第三楽章には、マーラーによる"座礁!「カロ風の」葬送行進曲"という解説がついていますが、「カロ」とはバロック時代に活躍したフランスの銅版画家ジャック・カロのことだそうです。奇しくも4月8日から、国立西洋美術館で「ジャック・カロ展」が開かれます。見に行こうかな。なお標題の「巨人」は、ジャン=パウルの超難解な哲学的小説の書名からとられたもの。マーラーの深い教養がしのばれます。
 そしてシンバルの強烈なfffで始まる第四楽章(嵐のように激動して)、マーラーは"深く傷ついた絶望の心が突然爆発する"という解説をつけています。時には砲丸投げ、時にはジャンプ、時には羽ばたきのポーズでオケを疾駆させる広上氏の姿には圧倒されました。全身全霊を捧げてマーラーの音楽に向かい合う京響の姿も感動的です。その濃密で巨大な音の大伽藍はわが身と心を打ち震わせ、まるで宇宙全体が鳴り響いているかのよう。これまでいろいろな演奏会を聴いてきましたが、間違いなく五指に入る名演でした。ブラーボ! アンコールはR.シュトラウスの歌劇『カプリッチョ』から間奏曲「月光の音楽」。なお京都で演奏された同じプログラムが、NHKのEテレ、3/30の21:00~23:00に放映される「クラシック音楽館」見られます。ぜひご一聴を。広上淳一氏と京都市交響楽団のマーラー、聴き逃すことはできませんね。

 余談ですが、プログラムによると、京都市交響楽団は1956年創立以来、日本唯一の自治体直営オーケストラだそうです。京都市長の門川大作氏が楽団長を兼ねており、「伝統とは火を護ることであって、灰を崇拝することではない」というマーラーの言葉を引用されながら、挨拶をされていました。地方自治体財政難の折、身銭を切ってこのような素晴らしい交響楽団を運営されている京都市に敬意を表したいと思います。ちなみに地方自治体がオーケストラの運営に関与する例は、ヨーロッパでは珍しいことではなく、ドイツのザクセン州立のシュターツカペレ・ドレスデンやオーストリアのウィーン国立歌劇場などもそれに該当します。
 ん? するとわれらが都響は直営ではないのか。気になったのでウィキペディアで調べてみると、東京都の監理団体(外郭団体)でした。その中で、気になる一文があったので紹介します。
 石原が都知事となって以後、都の財政再建策の一環として文化事業への歳出削減と外郭団体の統廃合がはかられ都響についても補助金の削減、団員の有期契約制、能力給制(各団員の能力の査定は都が行う)への移行などのリストラがはかられておりオーケストラの今後の存続が危ぶまれている。「第31回オリンピック競技大会の東京招致について」という決議をあげて東京都交響楽団が「東京オリンピック支持」を表明したことになっているが、楽団員の総意ではなく鳥海理事長が石原都知事の意向をうけて独断できめたという見解もある。都がオーケストラを持つことの是非ともあいまって、一部で議論の対象となっている。
 やれやれ、この御仁の辞書には、良識とか、芸術とか、公正とか、廉恥とかいう言葉はないようです。ま、いまさら言うまでもありませんが。
by sabasaba13 | 2014-03-24 06:17 | 音楽 | Comments(0)
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