『アメリカ帝国とは何か -21世紀世界紀秩の行方-』(ロイド・ガードナー/マリリン・ヤング編著 ミネルヴァ書房)読了。イラクは大量破壊兵器を所持しておらず、かつそれを知りながら、なぜアメリカ・イギリスはイラクを攻撃したのか。支援した日本は勿論、当事国のアメリカではもうすっかり過去の話となり水に流してしまったようで、責任を追及する気配すらありません。しかしイギリスではいまだにその真相の究明と責任の所在を明らかにしようという動きが続いています。こうした知的強靭さは見習うべきですね、知りたがりの怒りんぼにならなければ。
もし日本が集団的自衛権を容認した場合、強盗から守ってあげるべき友だち(笑)であるアメリカはどういう外交政策を基調とする国なのかを知ることは必須です。本書は、アメリカ外交の逸脱に憂慮の念を示すアメリカの著名な歴史家が一堂に会して行われた討論集会の結晶。イラク戦争は「アメリカ帝国」の抱える諸問題の氷山の一角にすぎないという考えをもとに、近年の合衆国の対外行動とその論理を考察した好著、読み応えがありました。発言・執筆者は、チャールズ・S・メイアー、ロイド・C・ガードナー、マリリン・B・ヤング、ジョン・プラドス、トマス・マコーミック、メリー・ノーラン、グレグ・グランディン、マイケル・エイダス、ジョン・W・ダワー、キャロル・グラック、エドワード・ローズ、アンダース・ステファンソンの諸氏。小生の能力不足故、全体の論調をまとめあげることはできません。注目すべき指摘を挙げることで、読者の考察の資になれば幸甚です。 【トマス・マコーミック】 冷戦の終結とソ連の崩壊によって、常識とは逆にヘゲモニーを回復する事業がいっそう難しくなった。確かに、新たに発見され、かつ仰々しく宣伝された「唯一の超大国」としての地位を反映して、アメリカの軍事力は鎖を解かれたプロメーテウスのように、いかなる制約からも自由になった。同時に冷戦の終結は、冷戦がそれまで重石の働きをして抑えてきた分離主義的で不安定にさせる数多くの勢力を解き放った。それにしても冷戦は-特にキューバ・ミサイル危機以降-かなり安定した共生的なシステム(メアリー・カルドーはそれを「想像上の戦争」と呼んでいる)に様変わりした。もっとも冷戦は、一見無秩序で危険きわまりない戦争と思われていたのであるが、そのシステムの下で、米ソ両超大国は、北大西洋条約機構の同盟国ならびにワルシャワ条約機構の衛星国だけでなく第三世界の自国の従属国に対しても自国のヘゲモニーを維持するため暗黙のうちに共謀し、それらの国々の「他者」への恐怖心を操作した。しかしソ連帝国の崩壊に加え冷戦の終結によって、その管理能力はかなり低下し、不安定と爆発の危険性を孕んだ新時代が到来した。(p.104) …商品、資本、サービス、人間、文化、イデオロギーの自由な流れを特徴とするグローバル化の波は、一段とその勢いを増す一方、他方ではグローバル化が限界点に達したことをはっきりと予示する激しい反グローバル化の巻き返し運動を引き起こした。それらは、グローバル化がもたらすはずの経済的恩恵が公平に配分されていないために、勝ち組と負け組が造り出されたのであり、またグローバル化の影響である文化の均質化と宗教の世俗化により、伝統文化と宗教が脅かされたために発生したのであった。弧を描くように西アフリカからインドネシアまでの地域一帯に高まったイスラム過激主義の波ほど、そのことを劇的かつ明示的に物語っているものはなかった。 しかしながらのそれらの諸問題のお株を奪ってしまう事件が発生した。それは、1992年のマースリヒト条約に具体的に表れたヨーロッパの挑戦であった。…それが独国であれ、あるいはロシアであれ、欧州が一強国の支配下に入ることは、合衆国にとって20世紀を通して最大の悪夢であった。したがってヨーロッパ連合が今もなお多くの問題を抱えていようとも、またそれが現在進行中であっても、合衆国はすぐさまヨーロッパ連合に対抗して封じ込め、合衆国に受け入れられるような方向にヨーロッパ連合を誘導する必要があった。(p.105~7) ちょうど湾岸戦争そのものが、冷戦後の世界において欧州が世界の原料を入手するためにはこれまでどおり合衆国を必要とすることを思い知らせるための「資源戦争」であったように、対イラクの低度の戦争は、ペルシャ湾地域の安定とヨーロッパ連合(と日本)が依存する原油生産の維持のためには、これまでどおりアメリカの保護が必要であることを今後もずっとヨーロッパ連合(と日本)に思い知らせる役割を果たした。アメリカの保護が必要であるということは、ヨーロッパ連合(と日本)が今後も国際政治においてヘゲモニー国アメリカの指導力に敬意を払い続けることを意味していた。(p.108) アメリカの軍事化を促した最後の事例はイラク戦争である。おそらくイラク戦争は、軍事化を実行に移すうえでふさわしい出来事であったかったかもしれない。すでに述べたように、制裁、査察、飛行禁止区域の設定、散発的な空爆の形をとった初期の政策は、ペルシャ湾地域および油田海域の安定を維持するためにはアメリカの庇護が必要であることを欧州に思い知らせるうえで一定の役割を果たした。(p.118) これらの動かしがたい事実は、欧州が-無視すべき意気地なしとか、当然視すべき同盟国といった存在であるどころか-むしろ中東地域の恐るべき競争相手であることをはっきり示していた。また地域建設というアメリカの政策を成功させるためには、政策において欧州を圧倒する必要があることも明示していた。そのような認識を抱いていたからこそ、合衆国は総じて欧州を周辺部に追いやり、欧州がまったく役割を果たすことのないように、特にイラク戦争それに続くイラク占領の際に、欧州を排除したのであった。(p.128) しかし、おそらくアメリカ軍の駐留はそれで終わらないであろう。合衆国は、戦後保護国となるであろうイラクの石油省内で影響力を行使することによって石油輸出国機構の事実上の加盟国となり、同機構の石油政策の調停役を演じるか、あるいは危機の際には石油産出国の「カルテル」の解体さえできるようになるであろう(『ファイナンシャル・タイムズ』紙によると、戦後のイラクは、石油輸出国機構内に留まるが石油輸出国機構が定めた石油生産量の割当てには拘束されないという決定がすでになされているという)。そのような戦略的地位につくことによって、合衆国はカスピ海やカフカスの石油や天然ガス資源、それにそれらの資源を輸送するパイプラインをめぐってロシアや西欧との間で展開される荒々しい経済戦争や外交舞台での戦いにおいて立場を強めることになるだろう。いずれにせよ、合衆国がそのような戦略的地位につくことになれば、中東地域やそれよりも広域の「危機の弧」における死活的なエネルギー源の入手権を確実に手にする際に、欧州はますますアメリカの保護と温情に依存しなければならないことになろう。(p.129) しかしながら、アメリカの多角貿易主義からの明らかな退却はそれ以上のことを示唆している。アメリカのヘゲモニーは、双子関係にある経済力と軍事力に常に依拠していた。つまり、それは、同盟国が自らの力で手に入れる経済的繁栄と安全保障を同盟国により確実に提供し得る力を意味していた。しかしながら、もしヨーロッパ連合の経済発展の見通しがアメリカ主導の多角的世界市場ではなく、ヨーロッパ共同市場ならびに中東地域やアフリカとの自由貿易協定にますます依拠することになれば、それは、アメリカの政策や規則へのヨーロッパの敬意を得る際にこれまで手助けをしてきたアメリカの経済的影響力をもはや欧州に及ぼしえなくなったことを意味していた。もしそうであるとすれば、アメリカのヘゲモニーは二つの柱というより一つの柱により大きく依存しなければならなくなることを意味している。つまり、一つの柱とは、他国の追随を許さないほどの圧倒的な軍事的優位を指している。そして、先制攻撃による戦争の原理の発表、巨額の軍事費、アフガニスタン戦争、そして現在戦っているイラク戦争は、すでに述べたように、明らかにアメリカの対外政策が軍事化へさらに傾斜していることを示唆している。(p.131) さらに、合衆国がアフガニスタンおよびイラクで先制攻撃によって戦争を開始したことは、核の拡散を促進することになり、それによって期待した効果のまったく逆の結果をもたらすことになった。というのは、いわゆる悪の枢軸と名指しされた北朝鮮とイランの両国はおそらく、アメリカの敵対的な行動を抑止できるのは核兵器を保有することであるとの結論を抱くにいたったからである。このことは、私たち読者を最初のテーマに立ち返してくれる。つまり、合衆国が欧州に提供しなければならない重要な安全保障とは、いわゆる危機の弧に眠る莫大なエネルギー源の入手権を、現在および将来においても、欧州に保障することを意味している。危機の弧とは、カスピ海からペルシャ湾を通ってアラビア半島に至り、さらに西へはリビア、南へはアデン湾にまで広がっている地域のことであり、イラク戦争はアメリカの中東政策の要であった。(p.132) ヘゲモニーの本質は、各国が独自に手に入れるよりも一層しっかりとした基盤の上に立つ安全保障と経済繁栄を、集団安全保障体制と経済的国際主義によってヘゲモニー国は各国に提供できると約束する。その代わりに各国は納得したうえで国家主権の一部を断念し、そうすることによって政治と経済の間の互いに矛盾し合う傾向の折り合いをつけるという点にあった。冷戦とアジアでの熱戦に払った大きな代価にもかかわらず、20世紀後半のアメリカのヘゲモニーは、世界の強国間の不安定な均衡が引き起こした世界戦争と経済恐慌よりも、一層安定しかつ経済的にも繁栄した世界秩序を作り出した。 徐々にではあるがヘゲモニーの衰退は、国民国家に狭い視野から自国の経済的および政治的国益のみを追求させないために必要な装置(見える手)を世界システムから奪っている。ヘゲモニー国家自身がその責任を放棄し、ますます世界システムの利益よりも自国の利益を優先する時、その状態は加速的に悪化の一途をたどる。ヘゲモニー国は、他国の行動を抑制できないばかりか自己抑制もできない。現在の合衆国が示す傾向は、管理された保護主義、二国間協定主義、先制攻撃による戦争、それに北大西洋条約機構のような恒久的な同盟関係からの暗黙の退却といった実験を敢行することにより、合衆国が確実にそのような危険を冒しているということである。(p.135) 【グレグ・グランディン】 ちなみに、国家安全保障会議(NSC)中東部長エリオット・エイブラムス、ジョージ・W・ブッシュ政権下の新イラク大使ジョン・ネグロポンテ、そしてアメリカの世界的なヘゲモニーの獲得を熱心に提唱するロバート・ケーガンといった現政権の顧問や政府高官の多くは、レーガン政権がニカラグアのサンディニスタ革命政権を転覆させようとしたコントラ戦争の実施にすべて関与していた。しかしながら、ロナルド・レーガンの中米における強硬路線-当時は説明しがたいほど極端な政策だと多くの人が考えていた-と、現ブッシュ政権の対外政策との間の関連性の方がはるかに興味をそそられる。多くの点で中米は、現在中東で起こっていることの舞台稽古のようなものとして理解できる。と言うのは、ニューライトの好戦派は、中東においてヴェトナムの亡霊を払拭するために、はるかに弱い敵に対して、ほぼ自由にアメリカの全権力を傾注してきたからである。(p.169) 【ジョン・W・ダワー】 私の専門領域である日本史から学び、最近私の頭から離れようとしない「教訓」が一つある。それは、日本が1930年代初頭に戦争への道を歩み、1945年になってやっと戦争を終えたということについてである。最近まで歴史家はこの悲劇の原因を日本の「後進性」とか「半封建性」という言葉で説明してきた。日本にはこれら武士の旧い伝統がある。日本は民主国家ではなかった―そしてもちろん、民主主義国家は侵略的な戦争をしない。しかしながら、近年の研究は日本の戦争への道をこれまでとは違った、もっと恐ろしい視点からとらえている。 なぜ「恐ろしい」というのか。第一に、最近の研究の多くが、戦争に対しタカ派的な指導者が日本を全面戦争に動員できた要因は日本社会および文化の「後進性」にあるのではなくむしろ近代性にある、と示唆している。近代の大衆伝達手段によって政治家やイデオローグたちは戦争感情を煽るとともに、戦争の準備を批判する人たちを国賊として厳しく非難した。海外市場や国外の資源に対する関心から、近代日本は満州、中国、それに東南アジアへと進出した。近代兵器に対する需要によって、技術革新が見られた。トップレベルの企画者たちは国(および周辺の地域)のすべての資源を「総力戦」に動員するための最新の理論を編み出した。詭弁にたけた名言家たちは、本土を守り、アジア全土の「共存と共栄」を促進する宣伝文句を注入した。暴力の文化、軍国主義の文化、国家の危機に際しての最高権威への無条件の服従―これらすべてが宣伝と支配の精巧な機関によって育まれた。そして振り返ってみると、これらのうちどれ一つを見ても特に時代遅れだとか、特に現在の「日本」にだけ当てはまるようなものは何一つない。 あまりにも恐ろしくて熟視さえできないもう一つの側面は、事実上あらゆる段階において、軍事的解決以外に解決の道がないとの結論を下した日本の指導者たちは大変頭がよくて、自分たちの技術的専門知識や特殊な知識、それに不吉な兆しの世界において感傷的にならない自分たちの「現実主義」に誇りを持っていたという点であった。これらの企画者の多くは、アメリカ人の言葉を借りれば、「ベスト・アンド・ブライテスト」たちであった。私たちは、彼らが審議ならびに企画用に作った論文の詳細な文書を目にすることができる。そしてその文書の大部分がきわめて合理的な言葉で表現されている。戦争を新たに拡大するごとに、その決定は国益にとって不可欠なものと考えられた。そして振り返って考えてみても、いわゆるこの現実主義がどの段階において境を越えて狂気となったかを言い当てることは難しい。しかし、結局それは狂気であった。(p.233~4) それにしても、失敗した日本帝国と現在興起しつつあるアメリカ帝国との間の相似点は著しい。両者とも、帝国建設の構想が壮大な右翼急進主義思想のなかにしっかりと位置づけられており、そして両者とも、侵略的でかつ、その対外政策は国内の優先課題や実践方法の全面的な変容を伴う基本的には単独路線を採用している。 研究者は、戦争と版図拡大への「近代的な」帝国日本による動員が実際にどれほど正道を踏みはずしたものであったかを、今になってやっと十分理解しつつある。自称愛国的革新官僚たちは、国外における「新秩序」の建設と国内における「新構造」の構築の機会を率先してとらえただけでなく、その二つの目標が不分離の関係にあることを鮮明にした。彼らの熱心な提言は力強く大胆かつ明確であった。彼らは目的を達成するためには口実や脅迫それに既成事実を使うことに躊躇しなかった。彼らは、前代未聞の強力な権力を軍部に付与するとともに、大企業家、官僚、政治家からなる強力な同盟を形成した。そして彼らは、新興のマスメディアを巧妙に操作しながら、国内では国民からの支持を取り付けた。 振り返ってみるに、私たちにはこれらの人たちの傲慢や狂気を取り上げ論じる傾向がある。短命に終わった彼らの帝国は、日本人の言葉を借りれば、「夢のまた夢」以外の何ものでもなかった、と簡単に片づけられている。しかしこのような扱い方はあまりにも短絡的である。束の間ではあったが、破竹の勢いで勝利を収めていったこれらの右翼急進派は、想像できないほどアジアの位相を変えただけでなく、日本をも永久に変えてしまった。そして彼らの大きな関心事、野望、それに成し遂げた事柄は、不気味で恐ろしいことでもあるが、現在私たちが目の当たりにしているアメリカの政策と多くの点で共鳴して合っている。政権交代、国家建設、従属国家の創造、戦略的資源の支配、批判的国際世論の公然たる無視、「総力戦」への動員、文明の衝突といった誇張的な言辞、人の心をつかむこと、国外はもちろん国内においてもテロと戦うこと―虚栄心の強い日本が、アジアで「共存と共栄」の新秩序建設を目指そうとした企ては、これらすべての部分から成り立っていた。(p.234) 【キャロル・グラック】 南原繁や野坂参三がそのような提案をしたことは事実であるが、しかし彼らのうちどちらか(あるいは他の誰であっても)が天皇の意思―「天皇の名において」行動していると主張することで利益を得ていた人たちの支持があるなかで―をくつがえして退位を迫ることができたと想像するのは難しい。(p.248) 【エドワード・ローズ】 要するに、ブッシュ政権の念頭にあるのは、グローバルな非公式アメリカ帝国である。(p.285)
by sabasaba13
| 2014-06-15 08:13
| 本
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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