「吉原すみれ パーカッションリサイタル2014」

c0051620_6345112.jpg 吉原すみれという打楽器奏者は何度か耳にしたことがあります。その彼女が、武満徹の曲を演奏するという「パーカッションリサイタル2014」というコンサートがあるという情報を入手しました。彼の音楽の良き聴き手とはとても言えませんが、私の好きな「雨の樹」も曲目に含まれているということで東京オペラシティのコンサートホール「タケミツ・メモリアル」に足を運ぶことにしました。山ノ神を誘ったのですが、あいにく仕事のため断られました。
 11月21日金曜日、激務を必死でこなして午後五時には職場から離脱。開演は午後七時なので、オペラシティで夕食をとろうと思っていましたが、虚飾に満ちた雰囲気の中でテナント料が加算された高額の料理を食べるのもちょっとなあ、と思い直して予定変更。笹塚駅で下車して、場末の中華料理店で炒飯を食べようかと駅周辺を歩きましたが見つからず、居酒屋チェーン店の「土風炉」でチキン南蛮定食をいただきました。
 仕事の疲れと満腹感から睡魔に襲われるのは必至、開演30分前には席につき非常事態に備えるためしばしうたた寝。そして開演です。一曲目は「カシオペア~打楽器ソロとオーケストラのための」、打楽器の吉原すみれと、杉山洋一指揮の東京フィルハーモニー交響楽団による演奏です。秘めやかな響きが奏でられる中、しずしずと吉原すみれが登場。スチール・ドラム、ウッド・ブロック、ゴングといったさまざまな打楽器を、時には激しく時には抒情豊かに奏で、オーケストラと渡り合います。二曲目は「ムナーリ・バイ・ムナーリ~打楽器のための」、山口恭範との二重奏。ゆるやかに静かに、打楽器で語り合う二人。睡魔の指が瞼をなでることしばしば、いやつまらないのではなく、あまりの心地よさの故です。三曲目はお目当ての「雨の樹~3人の打楽器奏者のための」、吉原すみれ(ヴィブラフォン)と小森邦彦・前田啓太(マリンバ)による三重奏です。プログラムによると、大江健三郎の小説『頭のいい雨の樹』の次の文章に触発されて作曲したとのことです。
 「雨の樹」というのは、夜中に驟雨があると、翌日は昼すぎまでその茂りの全体から滴をしたたらせて、雨を降らせるようだから。他の木はすべて乾いてしまうのに、指の腹くらいの小さな葉をびっしりとつけているので、その葉に水滴をためこんでいられるのよ。頭がいい木でしょう。
 三人の奏でる音が、きらめく水滴のように、囁く五月雨のように、激しい濁流のように絡み合い、ホールをまるで水でできた小宇宙に変えてしまいます。母の羊水の中にいるような心地よさに、またうとうと。
 ここで二十分間の休憩。後半は「フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム~5人の打楽器奏者とオーケストラのための」、吉原すみれ・山口恭範・菅原淳・小森邦彦・前田啓太の五人の打楽器奏者とオーケストラによる演奏です。ひそやかな鐘の音がホールに優しく鳴り響きますが、後方でも鐘の音が鳴りじょじょに近づいてきます。振り返ると二人の打楽器奏者が鐘を鳴らしながらゆっくりと歩いてきて、ステージへとのぼりました。気がつくと、ステージと後方二階席の間に、白・青・赤・黄・緑の五色の布がかけられています。また打楽器奏者たちも、それぞれ同じ五色の衣装を着ています。プログラムによると、これはチベットの習俗「風の馬(ルン・タ)」によるもので、遊牧民たちは、新しい土地を求める際に、一本の縄につられた五色の布が風になびく方向に移動するそうです。青は水を、赤は火を、黄は大地を、緑は風を、そして白はその四色を統合し活性化した色として、空・空気・エーテル・無を象徴しているとのこと。ちなみに吉原すみれが白い衣装を着ていました。それぞれの象徴や役柄に合わせた楽器や音楽がふりあててあると、故武満氏は述べられています。この曲も極上の心地よさで、音の海に心身をゆだねてうとうと。気がついたら静寂、そして万雷の拍手。

 プログラムの中で、武満氏は「私は静かな音楽を好む。そして、同時に、私はいま、自分が聴きたい音にだけ耳を澄ませたいと思っている」と語っています。打楽器ときくと、血沸き肉躍るダイナミックな音楽をつい想像してしまいますが、今回のようなさまざまなニュアンスに満ちた静けさも表現できるのですね。新しい発見でした。あらためて武満氏と五人の打楽器奏者のみなさんに感謝します。
by sabasaba13 | 2014-11-27 06:35 | 音楽 | Comments(0)
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