北海道編(7):開基百年記念塔(13.9)

 それでは1、2階へおりて、稚内の歴史を展示する北方記念館に参りましょう。稚内の遺跡や歴史、間宮林蔵によるオホーツク海から日本海沿岸の測量と、師の伊能忠敬の調査とを合わせて出来た「伊能大図」のフロア展示などをざっくりと見学。
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 蝦夷地実用ストーブ「カッヘル」や、江戸時代に武士たちが使っていたベッド「宗谷の寝棺」を復元したものなど興味深い展示もあったのですが、見終わった後にざわっとした違和感に襲われました。
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 サハリン残留朝鮮人に関する展示がない… 『国家と歴史 戦後日本の歴史問題』(波多野澄雄 中公新書2137)、および『戦争の克服』(阿部浩己・鵜飼哲・森巣博 集英社新書0347)から引用します。
 サハリン残留朝鮮人の問題は、出稼ぎのために樺太へ自発的に移住したり、日中戦争から太平洋戦争にかけての労働力不足のなかで、官による斡旋や徴用など「強制連行」によって樺太に移動したことに起因する。
 問題は、彼らが講和条約によって日本国籍を失ったために、「無国籍」のままサハリンに留まり、韓ソ間に国交がなかったことで韓国への帰還が事実上不可能となったことである。日ソ国交正常化によって日本人妻の夫として、あるいは子どもとして引き揚げたケースはあるが、大半のサハリン残留朝鮮人は、異郷に留まらざるを得なかった。
 1975年には、「樺太残留者帰還請求裁判」が始まり、89年の取り下げまで60回を超える口頭弁論が行われた。弁護団の主張は、韓国に帰国(原状回復)ができるまでは、「無国籍」の彼らが韓国への帰還を希望する限り、日本国籍所有者と同じ地位にある者として帰還させることに、さらに、「日本臣民」として日本領土であった朝鮮から内地を経て、やはり日本領土であった樺太に「強制連行」されたのであるから、日本政府に帰還させる義務がある、というものであった。(高木健一 『サハリンと日本の戦後責任』)
 この問題の焦点の一つは、希望者に特例的に日本国籍を与えることの可否であった。政府の見解は「平和条約によって日本国籍を失った人は数が多く、サハリン残留韓国人にのみ特例を設けることは法技術上むずかしい。また、日本国籍を失ったということは同時に韓国の国籍を取得したというふうに理解しており、韓国政府もこれに異議を申していないので、必ずしも無国籍ではない」というものであった。(1978年4月18日参議院外務委員会)(p.165~6)

森巣 たしかに拉致はひどい。しかし拉致というなら、サハリン在留問題はどうなるのか。戦前、日本は植民地支配の道具として、朝鮮人を大量に樺太(サハリンの日本語名)に強制連行しました。朝鮮人-当時は日本人だったわけですが、彼ら彼女らの多くは炭鉱や軍事施設で重労働をさせられただけでなく、姓を奪われ、言語を奪われ、皇居を遙拝し、朝鮮神社に参拝した、天皇の赤子でした。そんな人たちがいまだサハリンに留まっている。子孫を含めて実に四万人。あれも拉致でしょう。
鵜飼 拉致ですね。
森巣 北朝鮮による拉致被害は本当にひどいと思います。でも、それならサハリンにいる四万の人々に日本は何もしなくてもいいのでしょうか。だから、北朝鮮も含め一緒に問題を解決しましょうよ。手始めに、拉致された日本人と朝鮮人の名簿づくりあたりから始めたらいいのかな。
鵜飼 四万人以上の名簿(笑)。しかしそれを言ったら、日本に強制連行されてきた人々の分も加えなければいけませんよね。そうなると…。
森巣 とてつもないことになる。でも、日本はとてつもないことをしたのです。それは認めなければならない。(p.78~9)
 これほど重要な史実、しかも未だに解決されず進行中の問題に関する展示がないのは何故か。担当学芸員が、(1)この史実や問題を知らなかった、(2)知ってはいたが軽視した、(3)十全な認識はあったが"国益"のために敢えて無視した。そのいずれかでしょうが、(1)はちょっと考えづらいので、(2)か(3)なのではないのかなと推測します。その背景には、メディアの機能不全と過去の/現在の国家的犯罪についての皆の無関心という、深い暗渠がありそうです。"国益"のために特定の人々を犠牲とし、用済みになったり都合が悪くなったりすると弊履の如く使い捨て、まるでいなかったかのように不可視の存在としてしまう。日本近代史の根底に澱む暗部だと思います。私たちが「それは酷い」と声を上げなければ、未来永劫、政治家・官僚・財界の諸氏は臆面も羞恥もなく同じことを繰り返していくのでしょう。そしてこの動きは今、フルスロットルで加速しているように思えます。これまででしたら"差別する側である平均的な日本人"だったら、使い捨ても切り捨てもされず、国家の保護の対象となってきたような気がしないでもありません、建前かもしれませんが。しかし、消費税値上げ・福祉の切捨て・非正規雇用の拡大・TPP参加といった昨今の流れを見ていると、政官財の皆々様は、「資本を/卓越した能力を持たない日本人」を本気で切り捨てにかかっているようです。1%の富裕層と、有能な一部の日本人と移民でこの国を動かし、99%の貧困層にはスマート・フォンで慰安を与え、あるいは品性下劣なナショナリズムを煽りヘイト・スピーチで欲求不満を解消させる。だとしたら…うーん、困ったものですね、どうしたらいいのでしょう。
by sabasaba13 | 2015-02-14 06:29 | 北海道 | Comments(0)
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