北海道編(21):知床五湖(13.9)

 早朝の五時、尿意で目覚め、用をすませたついでにベランダに出ると、夜明け間近の光が斜里港を淡く照らしだしていました。紫煙をくゆらせながらしばし月明かりを堪能。もう一眠りして六時半に起床、朝食をすませて部屋に戻ると、港もすっかり朝の景色です。荷物をまとめてフロントへ行こうとすると、廊下の壁には道をのてのてと横切る熊の写真がありました。うーん、こういう場面にはでくわしたくはないですね。チェックアウトをしてホテル入口のベンチに座っていると、約束の午前八時半に知床ネイチャーオフィスの車が迎えにきてくれました。
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 数分走って事務所へ行き、ここで料金5000円を支払い他の参加者と合流、総計十人ほどのグループとなりました。それでは出発、しばらくは左手にオホーツク海を眺めながらのドライブです。天候は曇天、白波が目立つので海はやや荒れ模様。ガイドの方が「午後のクルーズは休航になるかもしれません」と教えてくれました。やがて車は山へ、途中にあった川では、鮭を獲る熊をしばしば見かけるそうです。
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 そして「知床五湖フィールドハウス」に到着。知床五湖周辺を散策するには、こちらで利用券を購入し、申請書を記入して受付をすませ、レクチャーを受講するという手続きが必要となります。われわれに関しては知床ネイチャーオフィスがすべて代行してくれたので、レクチャー(といってもビデオを見るだけですが)を受けるだけですみました。何のレクチャーか? そう、熊に関するレクチャーです。
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 旅をしていると時々「熊出没注意」という警告にであうのですが、どう対処すればよいのか諸説紛々、ここ熊の本場・知床で最善の対処法を教えていただきましょう。掲示してあった注意書きをもとに再構成してみます。
 ヒグマに出会わないことが最善の対処法!! ヒグマは大型の野生動物です。人を見てすぐ襲ってくるような凶暴な動物ではありませんが、つき合い方をまちがえると人身事故につながりかねません。私たちが、注意深く行動することによって、ヒグマとのトラブルのほとんどが回避できます。ヒグマとの事故を防ぐには、ヒグマに出会わないことが最も重要です。そのためには、音を出して自分の存在をヒグマに知らせること。たとえば「パンパン」と手を叩く、「オーッ」と声を上げる、鈴を鳴らす。
 そしてヒグマにエサを与えたり、ゴミを捨てないことも大事です。ヒグマは人を警戒しますが、エサをもらうことによって、あるいはゴミを食べることによって、人間は食べ物を連想させる対象となります。つまり近づいてくる… その結果起こったある悲劇について、知床財団の「ソーセージの悲しい最後」というポスターが貼ってありました。まるで『シートン動物記』の一節のような悲しい物語、紹介します。
 コードネーム97B-5、またの名はソーセージ。初めて出会ったのは1997年秋、彼女は母親からはなれ独立したばかりだった。翌年の夏、彼女はたくさんの車が行きかう国立公園入口近くに姿を現すようになった。その後すぐ、とんでもない知らせが飛び込んできた。観光客が彼女にソーセージを投げ与えたというのだ。それからの彼女は同じクマとは思えないほどすっかり変わってしまった。人や車は警戒する対象から、食べ物を連想させる対象に変わり、彼女はしつこく道路沿いに姿を見せるようになった。そのたびに見物の車列ができ、彼女はますます人に慣れていった。
 我々はこれがとても危険な兆候だと感じていた。かつて北米の国立公園では、餌付けられたクマが悲惨な人身事故を起こしてきた歴史があることを知っていたからだ。我々は彼女を筆致に追い払い続け、厳しくお仕置きした。人に近づくなと学習させようとしたのだ。しかし、彼女はのんびりと出歩き続けた。
 翌春、ついに彼女は市街地にまで入りこむようになった。呑気に歩き回るばかりだが、人にばったり出会ったら何が起こるかわからない。そしてある朝、彼女は小学校のそばでシカの死体を食べはじめた。もはや決断の時だった。子供たちの通学が始まる前にすべてを終わらせなければならない。私は近づきながら弾丸を装填した。スコープの中の彼女は、一瞬、あっ、というような表情を見せた。そして、叩きつける激しい発射音。ライフル弾の恐ろしい力。彼女はもうほとんど動くことができなかった。瞳の輝きはみるみる失われていった。
 彼女は知床の森に生まれ、またその土に戻って行くはずだった。それは、たった1本のソーセージで狂いはじめた。何気ない気持ちの餌やりだったかもしれない。けれどもそれが多くの人を危険に陥れ、失われなくてもよかった命を奪うことになることを、よく考えてほしい。
 さて、それでも出会ってしまったらどうするか。絶対にしてはいけないのは、走って逃げること。ヒグマが追いかけてくることがあります。もう一つは大騒ぎをすること。ヒグマを興奮させてしまいます。
 それではどうすればよいのか。…書いてありませんでした。ここからは私の推測ですが、妙手はない、ということでしょう。静かに逃げる、それでも襲われたら、♪LET IT BE♪、あるいは♪THE END♪。『静かな大地』(池澤夏樹 朝日文庫)の中で、あるアイヌが"おまえたち和人は、狼が害をなすという。それはおまえたちが狼の食べるものを奪うからだ。(p.222)"と言っていました。熊と出合わないための一番良い方法は、自然環境を壊さないことだと思います。知床財団のポスター曰く「人とクマがうまくやっていく道はあるはずだ」、その道はそこにしかないのでは。

 本日の二枚です。
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by sabasaba13 | 2015-03-11 06:30 | 北海道 | Comments(0)
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