植治の庭編(16):師弟愛の像(13.11)

 知恩院に向かう入口にあったのが「師弟愛の像」、後学のために解説文を転記しておきます。
師弟愛の像
嗚呼、暴にして無情の室戸台風、くずれ落ちる校舎の下に七人の教え子をかばいながら荒れ狂う天空に必死の加護を祈る女教師の崇高な姿、腕に胸に膝にすがって師の無限の愛情に恐怖をこらえる幼い児童達の傷々しい姿
死線を越えた師弟純愛のこの群像は、見る人をして胸を打たれ、聞く人をして襟を正さしめ、ひらすらに冥福を祈り、合掌黙祷を禁じ得ないのであります。

かく大き愛の姿をいまだ見ず この群像に涙しながる     吉井 勇
 1934(昭和9)年、瞬間最大風速84.5m/sという日本気象観測史上最高記録を記録し、死者2702名、行方不明者334名をだした超大型の室戸台風が近畿地方を襲い、大阪府豊能郡豊津尋常高等小学校の校舎が倒壊しました。51人の生徒が死亡、二人の女性教師が殉職したのですが、その一人横山仁和子先生は自らの体の下に学童三人をかばって命を救いました。その彼女を記念したモニュメントですね。なお大谷本廟にも、「師弟愛の碑」という同様の記念碑がありました。
 これは以前にも書いたことですが、何度でも繰り返して銘肝したいと思います。実は室戸測候所ではこの途方もない超大型台風の襲来を連絡しようとしますが、唯一の通信手段である郵便局の有線が停電で使用できませんでした。軍事優先のために防災システムがお粗末だったのですね。これは人災でもあります。ちなみにこの当時は、満州事件(1931)、五・一五事件(1932)、国際連盟脱退・滝川事件(1933)、そして陸軍パンフレット事件(「国防の本義と其強化の提唱」というパンフレットにより陸軍が政治に介入)(1934)といった事件が相次ぎ、日本が軍国主義の道を疾駆していた時代でした。自然災害への対策よりも、軍備に金をかける軍部や政府の愚に対して、辛辣で容赦ない一矢をあびせたのが寺田寅彦でした。室戸台風の二カ月後、1934(昭和9)年11月に彼が書いたのが「天災と国防」という随筆です。(『天災と国防』 講談社学術文庫)
 戦争はぜひとも避けようと思えば人間の力で避けられなくはないであろうが、天災ばかりは科学の力でもその襲来を中止させるわけには行かない。その上に、いついかなる程度の地震暴風津波洪水が来るか今のところ容易に予知することができない。最後通牒も何もなしに突然襲来するのである。それだから国家を脅かす敵としてこれほど恐ろしい敵はないはずである。(p.20)

 人類が進歩するに従って愛国心も大和魂もやはり進化すべきではないかと思う。砲煙弾雨の中に身を賭して敵の陣営に突撃するのもたしかに貴い日本魂であるが、○国や△国よりも強い天然の強敵に対して平生から国民一致協力して適当な科学的対策を講ずるのもまた現代にふさわしい大和魂の進化の一相として期待してしかるべきことではないかと思われる。天災の起こった時に始めて大急ぎでそうした愛国心を発揮するのも結構であるが、昆虫や鳥獣でない二十世紀の科学的文明国民の愛国心の発露にはもう少しちがった、もう少し合理的な様式があってしかるべきではないかと思う次第である。(p.23~4)
 寅彦の冷静ではあるが大変強い怒りに満ちた筆致が印象的です。彼はおそらくこう言いたかったのではないでしょうか。「天災への対策を講ぜず、不合理な戦争を熱狂的に支持する日本国民は昆虫や鳥獣と同等の存在である。」 昆虫・鳥獣に失礼な言い方だという留保はつけますが… 当時の軍国主義的な風潮に対する、これほど合理的で痛烈な批判にはなかなかお目にかかれません。
 ふりかって現在のわれわれは「二十一世紀の科学的文明国民」に値するのでしょうか。昨今相次いだ天災による被害を見るにつけ、疑問に思います。天災に対する研究・対策・救援・補償にかける予算は、防衛費に較べて微々たるものなのが現状では。「国益」という言葉が氾濫して辟易しておりますが、この列島で暮らしている人々の生命・財産を守るのがその本来の意味であるべきです。そりゃまあ「国益」と称して北朝鮮・中国・韓国への敵意を煽っていれば、格差を拡大再生産し続ける今の社会システムが安泰となるのはわかりますけれどね。少なくとも自然災害からわれわれを守るためにまともに金をかけようとしない、安倍伍長を筆頭とする多くの政治家・官僚の方々は、われわれの生命・財産など屁とも思っていないのは確かでしょう。口が裂けても「国益」などという言葉を使って欲しくない。私たちもそのことに気づかなくては。

 本日の一枚です。
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by sabasaba13 | 2015-06-08 06:31 | 京都 | Comments(0)
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