『医学探偵の歴史事件簿』

 『医学探偵の歴史事件簿』、『医学探偵の歴史事件簿 ファイル2』(小長谷正明 岩波文庫)読了。神経内科学を専門とするお医者さんである小長谷正明氏が、最近の遺伝子鑑定や歴史医学研究、歴史記録の解読を通じて、歴史上の人物の病気の真相に迫るというたいへん面白い本です。目次を紹介しただけでも、知的な好奇心を刺戟される方が多いでしょう。ケネディの腰痛、スターリンと医師団陰謀事件、二・二六事件と輸血、三島由紀夫の筋肉、皇女アナスタシアの青い血(以上ファイル1)、中臣鎌足の脊髄障害、チャーチルの腰痛、東独ホーネッカー議長の胆石とベルリンの壁崩壊、ラストエンプレスのアヘン中毒、芥川龍之介の頭痛と『歯車』、ダーウィンに来た病気(以上ファイル2)。医学の長足の進歩に驚くとともに、事実や文献に基づく科学的推理の冴えにも舌を巻きました。お見事。最近は通勤電車の中で、スマートフォンをいじる方々に周囲を囲まれ、四面馬歌の思いで気が滅入るのですが、この本のおかげでしばし飛耳長目の喜びに耽ることができました。なおファイル2のあとがきは、史上に残る傑作だと思います。
 探偵になりすまして過去の事件に入り込み、歴史上の人物の人生を追体験する作業は、知的亢奮を呼び起こしてくれ、楽しかった。昨年に引き続き上梓することができた理由の一つは中日ドラゴンズのふがいなさで、ナイトゲームのテレビ観戦が少なくなったからだ。落合博満監督の後継者たちのお陰だが、謝辞を呈しようとは思わない。(中略)
 毎度のことながら、家人の陽子にこの本の草稿に最初に目を通してもらった。辛口批評の合間に、時折笑みを浮かべて好意的な講評をくれる。周の幽王は狼煙を上げたが、筆者はパソコンのキーを打つスピードが速くなる。親しむべきは傾国の美女のではなく、荊妻(失礼!)の笑顔にしかずと思っている。しかし、ちょっとばかりつまらない。(p.219~20)

by sabasaba13 | 2015-07-15 06:30 | | Comments(0)
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