重森三玲の庭編(38):旧山邑家住宅(14.3)

 さあそれでは中に入りましょう。なお前回訪れたときは室内の写真撮影は禁止でした。どうせ今回も駄目であろうとカメラをバッグに仕舞い、ドアを開けて受付で入館料を支払うと…「写真撮影禁止」というつれない注意書きがありません。受付の方に訊ねると、撮影してもかまわないとのこと。やった、念ずれば花開く。カメラを取り出して、撮りまくることにしましょう。入口のドアはガラス張りで、リズミカルな木枠と葉の意匠の飾り銅板が、光の中で浮かび上がります。まずは階段をのぼり二階へ。この建物は4階建てですが、尾根の傾斜に沿って各階が階段状にずれて重なっているため、どの断面をとっても1階または2階建ての建築となっています。敷地や環境と一体になった建築、有機的建築(organic architecture)を提唱したライトの面目躍如ですね。応接室の入口は大変狭くなっていますが、中に入ると光に満ち溢れた広々とした空間が広がっています。この広さを強調するためにあえて入口の狭くしたのですね。茶室の躙口を思い起こさせます。
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 それにしても何と明るい部屋であることか。両サイドには嵌殺しの大きな窓があり、正面にはバルコニーに通じる大きなガラス戸。そして壁面の最上部には、採光・通気のためのドアがついた小さな窓が連続して並んでいます。大きな窓からは下界に広がる街並みや港や海を眺望でき、まるで展望台にいるようです。『自然の家』の中でライトはこう述べています。
 住まいというものは、まず第一に庇護する覆い(シェルター)として見えなければならない。…建物を洞窟のように考えるのをやめ、風景と関係したゆったりとした覆いの姿をまず考えるようになった。外部へと開かれた眺め、内部に取り込まれた眺め。(p.18)
 「風景と関係したゆったりとした覆い」、なるほどねえ、この応接室にいると彼の思想が具現化されていることがよくわかります。
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 そして外壁と同じ大谷石による装飾にあふれた壁が、部屋のあちこちに配置され、外部と内部の連続性を演出しています。また作り付けの長椅子・飾り棚・置台が壁面をおおいつくし、部屋全体を総合的にデザインしようとするライトの断固たる意志が伝わってきます。
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 応接室の北側には、大谷石で作られたモダンなデザインの大きな暖炉がありますが、彼は赤々と燃える炎にも強い思い入れがあったそうですね。中央に二セット置かれた、六角形のテーブルと五角形の椅子が印象的ですが、これはライトのオリジナルではなく、所有者であるヨドコウ(淀川製鋼所)がライトのデザインを模して制作したものだそうです。そしてドアにあった葉をモチーフにした飾り銅版が部屋の随所にちりばめられ、いいアクセントになっています。ああ何時間でもここにいて寛いでいたい、と思わせてくれる素敵な応接室でした。
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 本日の五枚です。
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by sabasaba13 | 2015-09-03 06:30 | 近畿 | Comments(0)
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