スイス編(3):成田空港(14.8)

 2014年の葉月初旬の某日、山ノ神はスーツ・ケースをころがし、私はテニス・バッグをかついで京成スカイライナーに乗り込みました。車中で山ノ神が、昨日撮影した「0655」の「たなくじ」をデジタル・カメラのディスプレイで見せてくれました。何と、「テラ吉」! "大きすぎて受け止められないくらいの吉"だそうで、こいつは夏から縁起がいいわい、ということにしておきましょう。成田空港駅に到着し、改札口から出ると、あいもかわらず警備員にパスポートの提示を求められました。みんなの感じる愛情/憎悪の比率が(たぶん)世界で最も低い空港、農民から土地を強奪して強権的に建設した空港、いつ来ても胃の腑の底に滓のようなものが溜まります。まずは地下にある「AIU」で海外旅行保険に加入しました。ん? 申込用紙に"「キューバ」が渡航先に含まれる場合はご加入いただけません"という記述がありました。なぜキューバだけ駄目なの? 後学のために係の方に訊いても要領を得ません。マイケル・ムーア監督の映画『シッコ』を見てもわかるように、医療など福祉の充実した国というプラス・イメージを持っているだけに意外です。もしかすると、キューバに対する心象を貶めるためのアメリカによう策謀ではないかと勘繰りたくなります。でも現在はアメリカとの関係が修復されつつあるので、近いうちにこの文言は削除されるかもしれません。
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 スイス航空のカウンターでチェックインをして荷物を預け、銀行でスイス・フランへの両替をしました。あいかわらず紙幣の肖像はアルベルト・ジャコメッティ(100スイス・フラン)とル・コルビュジエ(10スイス・フラン)。なお10フラン札の裏面には、彼が考案した人体に即した寸法システム、モデュロールが載っていました。
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 ボディ・チェックを受けて出国手続を済ませて、免税店で煙草2カートンとアイリッシュ・ウィスキーを買い込みました。なおこのお店の名前は「AKIHABARA」、もう世界的なブランドなのでしょうか。近くには「旅の思い出に笑顔でパチリ ~でも一緒に写ってはいけないものもあります~」というポスターがありました。何でしょう?
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 答えは鳥でした。鳥インフルエンザ感染への注意喚起です。売店で水のペット・ボトルを買うと、近くにあったお土産品のコハダのマグネットが眼にとまりました。私には珍しいのですが、あまりにもリアルで美味しそうなので衝動買い。そう、私はひかりものが大好物なのです。

 本日の一枚です。
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後日談。先日に読み終えた『沈みゆく大国アメリカ 〈逃げ切れ!日本の医療〉』(集英社新書)の中で、堤未果氏がキューバに言及されていました。
 …キューバの「医療外交」は世界中から注目されている。
 アメリカの経済制裁で苦しめられているキューバは、後ろ盾だった旧ソ連の崩壊後も、乏しい国家予算を国民の健康を守るための地域医療に投資している。
 革命後、キューバは国内全地域にかかりつけ医を配置し、医師と看護師が各地域住民の健康・予防・治療の三点セットを担当するシステムを整備した。必要があればそこから専門医のいる病院などに紹介される。「国民は治療を受ける権利がある」と書かれた憲法50条にそって、治療はすべて無料。だが担当医が地域住民の生活を丸ごと把握しているため、早期発見・早期治療で医療費は先進国よりずっと低く抑えられている。経済制裁によって輸入が制限されている医薬品の生産は自国内で行い、完全無料の医科大学を設立し、国内外の医学生に開放した。
 こうした政策の結果、キューバは低い国民所得で先進国並みの平均寿命と高い医療水準、なおかつ医療費は先進国よりも低いという、三大快挙を成し遂げた。
 旧ソ連崩壊前は、経済的援助と引きかえに「兵士」を紛争地へ派兵していたキューバ。だが「医療外交」に切りかえて以降、世界中の国々や被災地に送られるのは、兵士ではなく自国で養成した医師たちだ。
 現在五万人のキューバ人医師たちが世界66か国に派遣され、政府はその見返りに、石油を安く輸入したり、さらに年間80億ドル(8000億円)の外貨を稼いでいる。やがてこの「医療外交」は、南米の他の国々と連携し、アメリカ型資本主義にノーを言うほどの国力となった。
 医師たちが自国の医科大学で教わる、「地域に入り地域に帰る」という志は、かつて長野の若月俊一医師が提唱した地域医療の根幹と同じものだ。だがキューバの例はそうした「理想」を政治が後押しすることで、医療がその先にある国家の自立につながる力になること、そして「財源不足問題」は何を優先し予算配分をすべきか、為政者の方針次第でいかようにもできることを世界に向けて体現した、新しいモデルケースなのだ。
 2014年12月。
 アメリカ政府は、半世紀以上断絶していたキューバとの国交正常化を宣言。アメリカと日本のマスコミがこの決定を賞賛するなか、オバマ大統領ははっきりとこう言っている。
「この50年間で明らかになったのは、〈孤立化〉に効果がなかったことだ。そろそろ新しい手法をとるべき時期だ」
 アメリカが国交正常化に課した条件の一つである〈外貨によるキューバ国内への資本投入〉には、キューバが今後巻きこまれるだろう、マネーゲームの存在が見え隠れする。(p.208~10)
 医療を「国際貢献」と「安全保障」のために使ってきたキューバ。これは医者であったチェ・ゲバラの影響かもしれませんね。その志の高さに日本が学ぶことはできないのでしょうか。済世会栗橋病院の本田宏医師曰く「日本は…キューバのように、世界に胸を張って医師や医療を輸出すればいいんです。武器や原発を輸出するより、ずっと尊敬されると思いますよ」。またイラクの小児科医アル・アリ医師曰く「日本には世界一の被ばく医療がある。どうかイラクのために自衛隊でなく医療を、医師を、薬を送ってください」。安倍伍長は、こうした言葉に傾ける耳をお持ちでしょうか。ないでしょうね。貴方の言う「国際貢献」は「アメリカ貢献」だし、「安全保障」は「人間の安全」ではなく「資本の安全」でしょうから。
by sabasaba13 | 2015-09-29 06:35 | 海外 | Comments(0)
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