それではさっそく見学いたしましょう。入場料を支払うと、係の方が「日本人が訪れないので、日本語の解説はない」と残念そうに言ってくれました。いやいや世界遺産に登録されれば、日本人団体客が怒涛のように押し寄せますよ。
予習してきたことを確認しますと、ル・コルビュジェの計画は、太陽が南にあること、眺めがひらけて良いこと、質素な中にも生活に必要な機能を全て備え、かつ、それが最小限に近いこと。そして各部分は融通性と回遊性を持ち室内の視界を見通せるようにして、小さい家ながら、そこに空間の広がりと豊かさを与えることです。それを念頭に置いて、じっくりと拝見しましょう。
まず驚くのが、レマン湖に面した南側の壁面に設けられた長さ11mにも及ぶ連続窓(リボン・ウィンドゥ)です。リビング、寝室、浴室のどこからでも、この素晴らしい眺望を楽しめるのですね。
部屋と部屋を仕切る扉はなく、思ったよりも空間の伸びやかさを感じることができます。老夫婦にとっては移動も楽でしょうね。洗面器を隠すパネルがつけられていて、すっきりとした空間になっていました。
東端の空間のみが、スライド式の折りたたみパネルによって、客室として使えるようになっています。係の女性がそのパネルをすこし閉めてくれると、収納用の棚が現れました。ここまではリボン・ウィンドゥはつながっていないのですが、天窓からの光によって明るさは十分に確保されています。なお天窓のカーテンは、布製ベルトによって簡単に開閉できるようになっていました。
壁・床・パネルなどの色も、ル・コルビュジェが神経を使って配色をしたことがわかります。落ち着いた、かつ洒落た雰囲気をかもしだしています。なお壁面の片隅に、数色で塗られた小さな正方形がありましたが、これはどの色にするのかを判断するためのテスターです。
またジャム作りの好きな母のために、ワインセラー兼用の地下貯蔵庫を作られていて、彼の愛情を感じることができます。台所の大きな窓や洗濯室の天窓など、年老いた両親のために採光の配慮もされていました。
整理しやすく仕切られた納戸の棚はデザイン的にも素晴らしく、まるでモンドリアンの絵のようです。なおここにもル・コルビュジエとピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンが共同で設計した「スリング・チェア (Sling Chair)」がありました。
本日の五枚です。